担当者 | 冲永 荘八教員紹介 | |
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単位・開講先 | 選択 2単位 [文学研究科 日本文化専攻] | |
科目ナンバリング |
秋期では「殺す」ことの倫理的問題を考えることを通じて、私たち自らの死をとらえ直すことを目的とする。ピーター・シンガーの「動物解放論」は、苦痛が生じることが悪であり、そこに動物と人間とを区別する合理的根拠がない、という立場から殺生を否定する。これは近代的な個人主義、要素主義的な観点から悪の根拠を見る立場である。それに対して環境倫理学では、多様な生物から成る生態系の全体がよりよく維持される、という価値基準から善悪をはかる。これはプラグマティックな全体論的立場であるが、同時に近代的な人間観や要素主義を乗り越えたものでもある。そこで殺生や死は、絶対的な悪ではなく、自然となる。
その上で、一人称の死の問題をとらえなおす。敗北としての死という考えは、近代に支配的な要素主義的、個人主義的人間観に由来し、それに対して全体論的自然観からすると、生の現実と切り離せない自然としての死という考えにつながることを見る。そして後者の観点から、死の受容の思想の可能性について考察する。
善悪は何にもとづいているかを理解し、またそれが生死の価値づけにもつながっていることを理解する。またこうした議論のための、基本的な資料の読解力を養う。
学期末に試験を行う。基本的に出席は毎回とる。
種別 | 書名 | 著者・編者 | 発行所 |
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教科書 | プリントを適宜配布する。 | ||
参考文献 |
できるだけ具体的な事例から入り、可能な限りかみ砕いて解説するつもりだが、思想の根幹の部分は妥協せず伝えたいと考えている。春季と同じく、単位取得の安易さを見こんだ履修は厳に慎んで頂きたい。
配布されたプリントを家であらかじめ予習し、わからない言葉などを調べておくこと。
回 | 授業内容 |
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第1回 | 秋期授業の見通し。善悪は何にもとづいているか。絶対的な悪の基準はあるのか、他の何かの便宜のために悪が作られるのか。 |
第2回 | ピーター・シンガーの動物解放論の概観。 |
第3回 | シンガーにおける悪の根拠。苦痛の生じるところが悪であるという考え。個人主義要素主義的観点。 |
第4回 | シンガー動物解放論の限界。菜食主義、殺生の根絶、個人主義の問題点。 |
第5回 | 生態系、生物多様性の維持の条件。生態系維持のために殺すことが不自然になる場合と、自然になる場合。一方で、殺されることの自然、不自然。 |
第6回 | 環境倫理学の立場。環境の持続的維持を善とする、プラグマティックな立場。 |
第7回 | レオポルド、ネスは、殺生をどう位置づけるか。殺すことを自然と見なす場合、人間の生死は自然の中にどう位置づけられるか。 |
第8回 | なぜ死は敗北なのか。個の存在に視点を絞った場合に、死は悪の焦点となる。 |
第9回 | 倫理的観点からの個の位置づけは、個の存在と死についての見解に連動する。 |
第10回 | 死はどのようにして生じたか。もともとの生物には死がなかった。死を覚悟した者にとって、死の質が変化することについて。 |
第11回 | 死の克服の可能性。キュブラー・ロスの考察。 |
第12回 | トルストイ『イワン・イリイチの死』における、死との和解。 |
第13回 | 生死と時間。道元『正法眼蔵』の「現成公案」「全機」「有時」の思想。 |
第14回 | ウィトゲンシュタイン『草稿』。死との直面が生の輝きになること。「死後生」への希求は、客観的時間という人為的形式にもとづく。 |
第15回 | 「永遠の生」の「永遠」を、「無時間性」と理解することについて。客観的時間と個の存在、主観の存在との関係。「無時間性」と個、主観との無関係。 |