知的障害児の心理・生理・病理
担当者藤井 靖史教員紹介
単位・開講先選択  2単位 [教職研究科]
科目ナンバリング

授業の概要(ねらい)

 知的障害を理解するために必要な、脳の発生や解剖、生理機能についての専門的な知識を身につける。
 定型的な精神発達を理解した上で、知的障害を来たす代表的な疾患に関して病態生理を理解し、知的障害児の教育への応用力の獲得を目指す。
 事例討論やディスカッションを通じて、知的障害児について学校と家庭、保健・医療機関との連携における課題を整理し、その対応方法について学習する。
 なお、講義では履修生の知識・経験に即して、教育関係のゲスト・スピーカーを3回程度招聘する。ゲスト・スピーカーの助言により本講義内容を教師や教育行政に関わる立場の視点から捉える力を身につける。

授業の到達目標

 <共通>
  ・知的障害の理解に必要な脳の発生・解剖・生理を理解する。
  ・知能とは何か、また知能評価の具体的手法について理解する。
  ・知的障害に対する医学的アプローチや原因や病態の解明のための最新の研究を概観する。
 <A類>
  ・事例ディスカッションを通じて、学校における問題点を整理し、家庭や医療機関との協力や連携の必要性を学ぶ。
 <B類>
  ・個々の子どもに対して、家庭と学校・地域教育委員会との協力体制や医療機関との連携を構築する応用力を育てる。

成績評価の方法および基準

 知的障害の医学的側面の理解度(レポートで評価)70%と、演習に取り組む姿勢30%を基にして評価する。

教科書・参考文献

種別書名著者・編者発行所
教科書講義用に作成したテキストを使用する。
参考文献『脳のしくみ』 新井康允 日本実業出版社
参考文献『発達障害医学の進歩1』 有馬正高 他 診断と治療社
参考文献『発達障害医学の進歩14』  有馬正高 他診断と治療社
参考文献『小児神経学』 有馬正高 他 診断と治療社
参考文献『精神遅滞と発達の遅れ』  モイラ スミス著 後藤雄一 監訳診断と治療社 他

準備学修の内容

 授業で取り上げるテーマについての基本的知識については事前に調べておく。

その他履修上の注意事項

 学習した知識内容を常に最新のものに置き換えて行くことが必要である。その為には、学生各自が在学中から知識を更新していくための学習方法や情報獲得手段を獲得することが望まれる。リアクションペーパーは、学生の質問や意見に授業者が答えるものであり、リアクションペーペーを利用して学びを深めて欲しい。

授業内容

授業内容
第1回 オリエンテーション・知的障害総論
 知能とは何か?その捉え方の歴史的変遷について理解し、代表的な知能の評価方法を理解する。また知能を生みだす脳機能の基礎を理解する。
第2回 社会的対応
 ・ICF(国際生活機能分類)について学び、その実践的意義を理解する。
 ・A類学生はICFについて調べて発表する。
第3回 心理検査1
 ・心理検査に共通する特徴を理解し、さらに代表的な発達検査と知能検査の内容を理解する。
第4回 心理検査2
 ・WISC-IVの実際について理解する。
 ・A類学生・B類学生はグループをつくり、実際のWISC-IV検査結果をもとに、その解釈について検討し発表する。
第5回 心理検査3
 ・KABC-IIの実際について理解する。
第6回 知的障害を来す疾患1(知的障害を来す疾患の発見と社会の態度の変遷)
 Down症、甲状腺機能低下症、フェニルケトン尿症といった代表的な疾患を例として、知的障害を来す疾患の発見と、知的障害児に対する社会の態度の歴史的変遷について理解する。
第7回 知的障害を来す疾患2(神経細胞の新生・移動・成熟とその機能)
 神経ネットワークが、神経細胞の増殖、移動、シナプス形成といった手順を通じて作られていくことを理解する。また学習や記憶とシナプスの可塑性の関係について理解する。
第8回 知的障害を来す疾患3(奇形、成長障害または過成長を伴う疾患)
 ・染色体と遺伝子について基礎的な事項を理解する。代表的な染色体異常であるDown症について、成長に伴う課題を理解する。また、稀ではあるが、過成長を伴い知的障害を来す疾患があることを理解する。
 ・A類学生は、Down症の症状の特徴について調べて発表する。
 ・B類学生は、Down症児に対する学校での必要な配慮についてまとめて発表する。
第9回 知的障害を来す疾患4(認知機能獲得後の知的障害)
 リソソーム病であるGaucher病や、ペルオキシソ―ム病であるX連鎖性副腎白質ジストロフィーなどで新しい治療法が開発されてきた事実を通じて、こうした難病を抱える子どもを取り巻く環境を理解する。A類B類学生はグループをつくり、こうした難病の子どもへの支援や家族への支援について話し合い、発表する。
第10回 知的障害を来す疾患5(周産期障害)
 少子化が進むなかで、周産期医療の現状を理解する。早産や新生児仮死に伴う知的障害の特徴を理解する。周産期障害が親子関係の確立に及ぼす影響を理解する。
第11回 知的障害を来す疾患6(脳炎・脳症)
 ・脳炎・脳症に関して医学的基礎知識を身につける。
 ・A類学生は代表的な脳症であるインフルエンザ脳症について調べて発表する。
第12回 知的障害を来す疾患7(環境要因)
 A・B類学生はグループを作り、子どもの精神発達に及ぼす環境要因について調査し発表する。子どもの精神発達に悪影響を及ぼす環境の改善方法について討議する。
第13回 診断
 知的障害を来す疾患における原因診断の意義を理解する。遺伝相談の実際と課題について理解し、遺伝病の子どもとその家族への支援についてまとめる。
第14回 治療
 特異的な治療と非特異的な治療があることを理解する。また、骨髄移植や、遺伝子治療に伴う倫理的な問題についても理解を深める。
第15回 学校と家庭、医療機関の連携
 ・A類学生は、知的障害児の学校生活での問題点を整理して発表する。
 ・B類学生は、知的障害児に対する学校と医療の連携における課題を整理し、その解決策について検討し発表する。