親族法
担当者
単位・開講先選択必修  2単位 [法律学科 2018年度以降]
科目ナンバリングCIL-209

授業の概要(ねらい)

 社会の基本単位が家族であることは時代を超えた現実でしょう。しかし、家族のあり方自体は、時代・国柄などとともに常に変化します。特に情報社会を迎えつつある今日、家族のあり方が個人主義・意思主義の観点から大きく変わることが求められているような気がします。大きくいうと社会保障・税制などの社会制度の基本単位を、子供の健全な育成のために家族という共同体単位にするか、個人の自己実現のために個人単位にするかの価値判断でしょう。その背景には、個人を形作る個性というものはどこまで確かなものかという人間観の違いがあると思います。また、情報社会の発展の前提である自由競争と本当の弱者の保護とを両立することも求められています。そこで、本講座では、農業社会・工業社会・情報社会という歴史的なパラダイム転換を見据え、これからの社会の基本単位のあり方について考えることを目標に、生殖医療の発展によって生じた新しい親子関係についても学習します。また、内容は中江ゼミに直結し、全学部の方が受講できますので、ふるってご参加ください。

授業の到達目標

 婚姻・親子・後見制度の概要と問題点について理解する。

成績評価の方法および基準

 レポート(1回)、授業の出席、授業中の発言などを総合して評価しますが、出席点を重視します。

教科書・参考文献

種別書名著者・編者発行所
教科書『民法Ⅳ親族・相続』内田貴著 (東京大学出版会)
教科書 特になし。
参考文献『家族法判例百選』(有斐閣)
参考文献 実習指導の際、適宜紹介する。
参考文献『民法のすすめ』星野英一著 (岩波新書)

準備学修の内容

 指定した教科書を事前に読んでおくこと。
 このシラバスの授業計画の中に書かれている問についての自分なりの答をまとめておくこと。

その他履修上の注意事項

 考えるための道具として法律の条文を使いますので、必ず、小六法を持参してください。

授業内容

授業内容
第1回 使用するテキスト『民法Ⅳ親族・相続』(内田貴著 東京大学出版会)に従って、次の順序で、毎回の授業を行いますが、教科書の記述を単になぞるような授業をするのではなく、以下の問を切り口とする対話方式の授業を心がけます。
 婚姻の効果
第2回 婚姻の成立
第3回 婚姻の無効・取消
第4回 離婚
第5回 内縁
第6回 嫡出子
第7回 非嫡出子
第8回 養子①
第9回 養子②
第10回 親族関係
第11回 後見・保佐・補助
第12回 扶養
第13回 氏と戸籍
第14回 家事紛争をめぐる裁判制度
第15回 諸外国の親族法
 親権
 ○後見:判断能力が衰えた老人が、代理人の同意を得て買った通信販売の壺を1週間後に返品できるか、ネット・自販機で買った場合はどうか
 ―キーワード―
  認知障害 成年後見制 後見監督人 後見制度の建前 保佐及び補助、消費者契約法、特定商取引に関する法律→書面契約+クーリングオフ、電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律で重過失免責を排除→確認画面、クーリングオフ訪問販売のみで8日間、事実的契約関係と行為能力、金融商品の販売等に関する法律、割賦販売法
 ○後見:判断能力が衰えた老人が、老後の生活費にと息子がくれた土地を、格安で2人に売ってしまった場合、その土地は誰のものになるか
 ―キーワード―
  民法5条 認知症 行為能力 後見・保佐・補助 物権変動 対抗要件 意思表示 意思の瑕疵 公示力と公信力 無効と取消 成年後見制度 福祉サービス利用援助事業 精神障害者 同意 精神保健指定医の診断 保護者の同意 医療保護入院 精神病院 犯罪構成要件 法益 人身の自由を侵す罪 任意入院 措置入院 精神保健 精神障害 社会的耐性 結果無価値と行為無価値 客観的違法性と実質的違法性 違法性阻却事由
 ○日本に女帝が誕生することはあるか
 ―キーワード―
  婚氏続称と夫婦別姓 皇室典範と女帝 女系と男系 母系社会と父系社会 個人・家族・正義
 ○婚姻:A男は、B子との子に嫡出子の身分を得させるため、献身的に看病してくれた礼として財産を譲るため、婚姻届出した場合、この婚姻は有効か、
  臨終の床にある老人が、看病して入れた女性に財産を譲るために出した婚姻届は有効か、生活保護の受給を続けるために離婚届を出したが、夫の死後、その損害賠償請求権を相続するため、離婚の無効を主張することができるか
 ―キーワード―
  形式的婚姻意思説、実質的婚姻意思説、臨終婚・仮装婚の効力の違いと婚姻意思の考え方、事実婚主義と少子化対策、日本の婚姻の歴史とPACS、財産法と家族法の哲学の違い、生活パートナーシップ法(独)、サンボ(スウェーデン)、PACS(仏)
 ○婚姻:A男はB子が妊娠したというので彼女と結婚したが、実は他人の子供だった場合、この婚姻を取り消すことができるか
 ―キーワード―
  錯誤の種類、動機の錯誤と要素の錯誤の違い、一元説、二元説、婚姻意思
 ○婚姻:A男はB子と盛大に結婚式を挙げた後で気が変わったが、婚姻届を提出されてしまった場合、婚姻は成立するか
 ―キーワード―
  婚姻制度の沿革 婚姻届の意義 婚姻の要件 婚姻意思の合致 婚姻無効の訴え 婚姻の一般的効果 臨終婚 未婚率上昇の原因 男女交際活発化と結婚難 親族関係の変動と効果 男女交際機会の増大と恋愛観の変化 婚約と結納 美人・不美人の差は皮1枚 有性生殖とSEX ゲイとレズ ソドムと百人一首・王朝末期 ラブホテルの経済学 SEXと健康 離婚と実質的意思説(最判昭和44.10.31)・形式的意思説 制度的婚姻観から契約的婚姻観へ
 ○婚姻:A男はB子と意気投合して婚姻届を書いた。B子は市役所に出す前に気が変わったがA男はそのまま市役所に提出した。A男のことを幸せに出来るのは自分しかいないと思っているC子はどうすればよいか
 ―キーワード―
  身分行為意思の浮動性、無効と取消、意思主義と形式主義
 ○婚姻:あの有名俳優と結婚したら、あなたの苗字はどうなるか
 ―キーワード―
  氏・姓・苗字 文化圏ごとの氏名の順序 氏の考え方(同氏共同体説 家族一体性説 個人の符牒説) 氏の利用と個人の人格権 別姓・同性・結合姓 男女同権法(妻に二重氏を認める 独1957年)婚姻改革法(氏の選択の自由 二重氏の場合、自分の氏を前に置く 独1976年) 明治民法典(氏は家の呼称 婚姻により夫の家に入る) 子の姓(夫婦別氏の時の第1子と第2子) 夫婦同氏の原則 親族と親等 夫婦別姓の歴史 夫婦財産制 老親と子供家族の関係 憲法13条
 ○婚姻:従兄弟・妻の妹と結婚できるか
 ―キーワード―
  欧米と儒教文化圏の違い 生物学的理由と倫理的理由 同姓不婚
 ○婚姻:既婚者も未婚者と同じ率の遺族年金保険料を払うのはなぜか
 ―キーワード―
  扶養義務 私的扶養 公的扶養 保険の原理+扶助の原理=社会保険方式 リスクと保険料 法律婚主義 事実婚主義 成立要件主義 効力要件主義
 ○婚姻:玄宗皇帝・楊貴妃の結婚と戦地に行ったまま帰らない夫の弟・妻との結婚の違いは何か
 ―キーワード―
  直系姻族間の婚姻 逆縁婚(生存する妻が死亡した夫の兄弟と再婚すること) 順縁婚(生存する夫が死亡した妻の姉妹と再婚すること) 倫理的観念 婚姻の自由
 ○婚姻:少子化を止める為に独身者に特別税を課す事は正しいか
 ―キーワード―
  租税原則、同一性と差異、区別と差別、政策目的と人権、中国一人子政策と婚姻年齢の引き上げ、法の下の平等の意味、積極的差別解消措置と逆差別
 ○婚姻:両親の猛反対にもかかわらず駆け落ちした、18歳カップルの婚姻を、親は取り消せるか。また、後で男性の方が、若気の至りだったとして、自ら取り消すことはできるか。
 ―キーワード―
  婚姻の成立 婚姻の無効・取消 離婚 制限行為能力制度の趣旨 遺言する能力 能力格差対策 行為・権利・意思・責任能力と法律行為 契約と不法行為 婚姻取消事由 法律婚主義 事実婚主義 成立要件主義 効力要件主義 同意なき婚姻も、完全・有効なものとして成立することになる(昭30・4・5最判(小)・裁判集民18巻61頁・家裁月報7巻5号33頁)、現存利益、有印私文書偽造
 ○婚姻:日本の裁判離婚は何故少ないか
 ―キーワード―
  家事事件処理の手続き 人事訴訟 調停・審判と裁判 協議上の離婚 裁判上の離婚 離婚原因総説 同棲、協議離婚がない欧州諸国、協議離婚が9割の日本、有責主義から破綻主義、夫婦の生活共同体が存在せず再建できない状態、離婚の自由の歯止めとしての苛酷条件
 ○婚姻:浮気の慰謝料はいくらか
 ―キーワード―
  離婚の身分上の効果 財産分与と慰謝料 内縁 重婚的内縁関係 損害額の計算式 養育費を確実に取る 種の多様性とオスの行動 4人の妻を認めるイスラム教 欲望と倫理の調和 9.11とイラク戦争 自由市場と一夫一妻制 各国の夫婦のあり方 一夫多妻と一妻多夫 大草原の小さな家
 ○婚姻:浮気をした夫から離婚請求できるか
 ―キーワード―
  改正民法 離婚事由 離婚法の沿革 有責主義 破綻主義 婚姻法改正要綱 民法770条 重婚的内縁関係 慰謝料 財産分与 損害額の計算 親権者 調停前置主義 人事訴訟法 調停・審判と裁判 協議離婚 裁判離婚
 ○親子:A子は念願かなって初恋の人B男と40歳で結婚した。高齢出産となるためC子に代理母を頼みD子が生まれたがC子はD子を連れて姿を消してしまった。A子がD子を取り戻すにはどうしたらよいか
 ―キーワード―
  母子関係の基軸:遺伝子・意図・出産のいずれか、代理母、仮腹、ベビーM事件、契約順守と予測可能性、子の福祉、依頼人夫妻、代理母の翻意、産みの苦しみ、日本産婦人科学期ガイドライン、厚生科学審議会生殖補助医療部会、生殖補助医療に関する法律、いのちの法と倫理、不妊治療
 ○親子:弟と息子のどちらが自分に近いか
 ―キーワード―
  親等、ハミルトンの法則、血縁者に対する利他行動、両性倍数体、両親を同じくする兄弟の遺伝子、血縁認識、同居の効果、表現型マッチング、配偶行動、近親婚回避、台湾のシンプア結婚、イスラエルのキブツ内結婚
 ○親子:タレントの向井亜紀さんと元プロレスラーの高田延彦さん夫妻が米国人女性に代理出産を依頼して生まれた双子の出生届を受理するよう求めた裁判で、最高裁は、「現行民法の解釈では、卵子を提供した女性と子の間の母子関係は認められない」との初判断を示したが、これをどう考えるべきか
 ―キーワード―
  生命倫理 AIH・AID・借腹・代理母、特別養子、子供の受取拒否・取り合い クローン人間 キメラ 環境破壊 人間の生き方 ライフサイエンス 科学哲学 進歩思想 人間性 歴史観 進化論 科学的知識 人口対策 欺瞞的自然愛 記述の理論 制御の理論 自然と人間の接点 臓器移植 脳死 遺伝性疾患 宗教
 ○親子:ひきこもりが急増したのはなぜか
 ―キーワード―
  親権 親権の効力 居所指定権 身上監護権 3号被保険者とひきこもり 皆婚主義と非嫡出子差別 女性の年金権 パラサイトシングルと年金産業 老後の心配と個人年金
 ○親子:藁の上からの養子をもらった女性が、その子を怠け者の内縁の夫の養子にすることは許されるか
 ―キーワード―
  特別養子 利益相反行為 監護教育権・財産管理権 養親年齢・配偶者のある者の縁組
 ○親子:兄弟数が減るのは社会にどんな影響を与えるか
 ―キーワード―
  ヌクレオチドとアルファベット リン酸・糖と4塩基 表音文字と表意文字 順列組合せ DNAの形質発現 遺伝子(蛋白質の設計図=アミノ酸の配列を決定)組み換えとヒトゲノム メッセンジャーRNA 生物と文学の多様性
 ○親子:現代日本の出生率はなぜ下がり続けるのか
 ―キーワード―
  ローマ帝国の出生率史 中絶胎児は廃棄物か? ドップラー効果と波源の移動 韓国と北朝鮮の出生率 女性の有業率と出生率 日本より低いアジアニーズ出生率 儒教的家族主義 情報革命と出生率 フリーターの出生率
 ○親子:妻子を棄てた男の老後の面倒は誰がみるのか
 ―キーワード―
  扶養と社会保障 私的扶養と公的扶助 扶養義務者の範囲 扶養の方法 扶養料の請求
 ○親子:子育て費用を社会保険で出すことは望ましいか
 ―キーワード―
  育児の社会化 介護保険と育児保険 白川郷 非法律婚 同棲(サムボ)制度、PACS、国民負担率 社会民主主義 エーデル改革 コミューン 年金スウェーデン方式 長い平和 スウェーデンの第一子の婚外子率、児童手当と子供手当
 ○親子:事実婚の、父日本人、母フィリピン人の子が、認知された時、日本国籍を得ることができるか
 ―キーワード―
  格差原理、法令審査権と民主主義、自然法と価値相対主義、国籍法、血統主義、国籍法の哲学
 ○親子:人工授精は社会にどんな影響を与えるか
 ―キーワード―
  社会保障における個人主義と家族主義 被扶養者・遺族年金という考え 情報革命と家族 大家族と核家族 情報社会の子育てと新しい家族のあり方 自立した個人による多様な家族の形を応援することが諸問題の解決につながる
 ○親子:夫の死後、凍結精子でできた人工授精児は認知を求めることが出来るか
 ―キーワード―
  死後生殖 生命倫理 父親を持つ権利 優性・劣性と出現頻度・生存力
 ○親子:離婚直前で完全に別居し婚姻の実体がなく、新しいパートナーとの間に子どもを設けていた場合、そのパートナーの子として戸籍に記載できるか
 ―キーワード―
  無国籍児旅券発給 再婚禁止期間短縮 婚姻解消後300日 嫡出推定(772条)