経済思想史Ⅱ
担当者佐藤 光宣教員紹介
単位・開講先選択  2単位 [経済学科]
科目ナンバリングEDE-202

授業の概要(ねらい)

 経済生活に関する知識は経済現象の分析と総合を通じて生み出され、またその反省を積み重ねることによって発展し、遂に学問としての経済学として成立した。その後、幾多の経済学の学派(school of Economics)が形成されてきた。経済学とその学派に対して系統的に行われる理論的研究は、これを経済学史と称する。この経済学史は経済学の分析手段の理論的変遷を問題とする。したがって、経済学史は経済分析の歴史でもある。その経済分析と同様に歴史を幅広く辿りつつ、経済理論が依拠する思想的根拠に一層切り込んで考究する学問分野は、これを経済思想史という。このように経済思想史においては、経済学的知識の体系原理まで踏み込んで考究する。さらに、経済学を構成する種々の概念を、それが拠って立つ本質ないしは根拠において把握する試みがなされるのである。この試みは思想的解釈そのものであり、この広範な知的営みを通じて、極めて豊富な内容を有する学問としての経済思想史の実像に接近することができるであろう。本授業のねらいはここにある。

授業の到達目標

 現今の資本主義という金銭文化段階(pecuniary stages of culture)にある諸社会は、極めて不安定な様相を呈している。学生には、この経済社会のなかで生き抜く力が以前にも増して求められている。加えて、我々は、問題解決能力を涵養することはもとより、何が問題なのかを見極める能力そのものが問われている。それゆえ授業の到達目標は、各時代の経済問題を的確に摘出し処方箋をともかくも提示した、その先人たちから生きる姿勢を学び取ることである。そこで授業の到達目標の細目を、次のように定める。
 (1)19世紀から今日に至るまでの経済思想の流れを理解できること。
 (2)現今の経済社会について思想的解釈を行うことができること。
 (3)限界効用経済学の意義と限界について理解できること。
 (4)ウィリアム・S・ジェヴォンズの生涯と著作に関する見識を得られること。
 (5)ソースタイン・B・ヴェブレンの基本的な経済思想とその意義を理解できること。

成績評価の方法および基準

 後期期末試験の点数を中心に、学習到達度調査小テストと平常点によって成績を決定する。その配分基準は次の通りである。
 期末テスト60%/学習到達度調査小テスト20%/平常点20%

教科書・参考文献

種別書名著者・編者発行所
教科書テキストは使用しない。プリントを配付する。参考書は下記の通りである。
 
参考文献A History of Economic Thought, 1954Eric RollLondon: Faber & Faber
参考文献経済学説史隅谷三喜男 訳有斐閣、上下巻、平成14年刊
参考文献The Evolution of Economic Thought, 1963Jacob OserNew York: Harcourt Brace & World
参考文献A History of Economic Thought, 1977William J. BarberLondon: Penguin Books
参考文献経済思想史入門稲毛満春・大西高明 訳至誠堂、昭和48年刊
参考文献道徳および立法の諸原理序説(世界の名著38)ジェレミ・ベンサム (著) 大河内一男 (編集) 中央公論新社、昭和63年刊
参考文献The Theory of the Leisure ClassThorstein VeblenNew York: The Macmillan Company, 1899
参考文献有閑階級の理論小原敬士 訳岩波書店、昭和36年刊
参考文献The Theory of Business EnterpriseThorstein VeblenNew York: Charles Scribner's Sons, 1904
参考文献営利企業の理論小原敬士 訳岩波書店、平成8年刊
参考文献Imperial Germany and the Industrial RevolutionThorstein VeblenNew York: Macmillan, 1915
参考文献制度主義者たちと限界主義経済理論佐藤光宣 著多賀出版、昭和63年刊

準備学修の内容

 まず、「アダム・スミスの生涯と著作」についてレポートにまとめること。
 次いで、総合基礎教育科目の「経済学」を履修し、その内容を的確に理解していることが望ましい。同様に、「経済学史」は必須の授業科目と言わねばならない。また、歴史について深く真摯な関心を持つことは、この授業の準備として何より幸いである。さらに、世界史と経済史とを同時に学ぶことも準備学習となる。「経済思想史Ⅱ」を受講するについては、前期授業の「経済思想史Ⅰ」を必ず履修していなければならない。
 なお、授業2単位週90分間の授業については、週180分以上の授業時間以外の学習時間が必要である。本授業も、その例外ではない。

その他履修上の注意事項

 経済思想の歴史を理解することは、先人たちの知的格闘を通じて建設された経済学に対して畏敬の念を深めるに違いない。学生は授業に臨んでは、経済学的および歴史的な観点から物事を考える態度で聴講し、読み書きすることを望む。授業の内外を通じて行われるであろう勉学は、この授業が学生に対して最も欲するところである。
 なお、毎回の授業に際して学生は勉学のための秩序を乱すことのないよう、まず要望する。また、一貫した知的環境のなかで授業が成立するよう、併せて要望する。

授業内容

授業内容
第1回 自己紹介。授業の内容と予定および前期授業の概括
  ―シラバスの解説を中心として―
第2回 経済思想の歴史とその展望 ①
  ―重商主義の経済思想と大航海時代―
第3回 経済思想の歴史とその展望 ②
  ―偉大な建設者たちと経済学の主要な学派―
第4回 ドイツ歴史学派の伝統と経済社会学者の活躍
  ―資本主義をめぐるゾンバルトとウェーバー―
第5回 ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル
  ―『精神現象学』と弁証法哲学―
第6回 カール・ハインリッヒ・マルクスの経済思想
  ―観念論の体系としての『資本論』―
第7回 限界革命と快楽主義心理学
  ―苦痛(pain)から快楽(pleasure)への心理学的重点の移動―
第8回 ウィリアム・スタンレー・ジェヴォンズ(William Stanley Jevons)の生涯と著作
  ―鉄道恐慌と太陽黒点説を中心として―
第9回 ウィリアム・スタンレー・ジェヴォンズの経済思想
  ―限界効用逓減の法則と『経済学の理論』―
第10回 ソースタイン・ヴェブレン(Thorstein Veblen)とアメリカ制度学派
  ―『有閑階級の理論』(The Theory of the Leisure Class, 1899.)を中心として―
第11回 ヴェブレンの制度の概念とウィリアム・ジェームズ(William James)の習慣
  ―『心理学原理』(The Principles of Psychology, 1890.)をめぐって―
第12回 ヴェブレンと近代経済社会
  ―顕示的消費と金銭的競争(pecuniary emulation)―
第13回 アーサー・セシル・ピグー(Arthur Cecil Pigou)とその厚生経済学
  ―厚生経済学の三命題を中心として―
第14回 ジョン・メイナード・ケインズ(John Maynard Keynes)と大恐慌
  ―ヴェブレンの「社会的購買力」とケインズの「有効需要」―
第15回 カール・グンナール・ミュルダール(Karl Gunnar Myrdal)と貧困
  ―偏見の社会的成長と累積的因果関係の原理―