日本の産業Ⅱ
担当者江本 伸哉
単位・開講先選択  2単位 [経済学科]
科目ナンバリングECP-214

授業の概要(ねらい)

鉄鋼業界は時代遅れの古い産業(オールド・エコノミー)の代表選手のように思われがちですが、実は日本が今なお国際競争力を維持している数少ない基幹産業の1つです。
 この「日本の産業Ⅰ(鉄鋼)」は、秋期の「日本の産業Ⅱ(鉄鋼)」と接続して通年の授業とします。このため、通年(ⅠとⅡ)受講を強くお勧めします。ただし、学生の皆さんの都合により春期(Ⅰ)のみ、あるいは秋期(Ⅱ)のみの受講も可とします。
 まず前半の「Ⅰ」(第1回~第15回)では、戦後日本の経済復興、高度経済成長を支えたわが国鉄鋼業界の波乱万丈の歩みを解説します。戦後日本の鉄鋼業は産業界の「長男」として、産業界、経済界をリードしてきましたので、鉄鋼業の戦後史を学ぶことで日本経済の戦後史も学ぶことができます。
 続いて後半の「Ⅱ」(第16回~第30回)では、①かつて世界の鉄鋼業界をリードした欧米鉄鋼業界、②日本の鉄鋼業が世界を席巻した後、台頭してきた韓国、中国、インド、ブラジル、台湾、インドネシア、ベトナムなど新興鉄鋼メーカーの追い上げを説明し、③こうした中でわが国鉄鋼業界がなお国際競争力を維持している理由を明らかにします。④さらにわが国鉄鋼業界が抱える課題についても説明します。
 全体としてわが国鉄鋼業の強みと泣き所を理解してもらい、現代の日本の経済や社会を支えている重要な基幹産業であることを知ってもらうのが最大の狙いです。教科書はありません。毎回プリントを配ります。また、授業で生じた質問、感想・意見、要望・提案などは、毎回「ミニッツペーパー」(MP=その日の授業内容についての復習問題)に書いて提出してもらい、それに対する私なりの回答をまとめた「MP通信」を次の授業で配ります。

授業の到達目標

①戦後の日本経済においてわが国鉄鋼業が果たした役割を理解する。
②世界の鉄鋼業界が大きく変動する中でわが国鉄鋼業界の位置づけを理解する。
③新興国が追い上げる中でわが国鉄鋼業界がなお国際競争力を維持している理由を理解する。
④日本の鉄鋼業界が抱える課題を理解する。

成績評価の方法および基準

①評価は春期(Ⅰ)と秋期(Ⅱ)で個別に行います。
②出席回数が3分の2(原則として10回)未満の場合は、単位を与えません。
③「ミニッツペーパー」(MP=復習問題)点が60点(MP1枚4点×15回=60点)。
④期末レポートが40点。
⑤MP上で特に鋭い質問、なるほどという感想・意見、有効な要望・授業改善提案があれば、その都度、③④とは別に特別加算(5~20点)をします。

教科書・参考文献

種別書名著者・編者発行所
教科書なし(毎回レジュメを配布)
参考文献私の鉄鋼昭和史稲山嘉寛東洋経済新報社
参考文献君は夜逃げしたことがあるか 私の人生経験と経営理念永野重雄日刊工業新聞社

準備学修の内容

①「日本経済新聞」など経済紙、「日経産業新聞」など産業紙、「日経ビジネス」「週刊エコノミスト」「週刊ダイヤモンド」など経済誌で鉄鋼業界に関する記事を意識的に読むようにしましょう。
②参考書に挙げた『私の鉄鋼昭和史』は八幡製鉄社長、新日本製鉄社長、経団連会長を歴任し、「我慢の哲学」を経済界に説いた稲山嘉寛さんの自叙伝です。『君は夜逃げしたことがあるか』は富士製鉄社長、新日本製鉄会長、日本商工会議所会頭を務めた永野重雄さんの自叙伝です。どちらも分かりやすく、面白い本です。ぜひ読んでみてください。図書館にはあると思います。

その他履修上の注意事項

①出席が3分の2(原則10回)未満の場合は、(たとえ期末レポートを提出しても)単位を与えません。
②公欠の場合は1か月以内に届けを出せば、MP(復習問題)点2点を与えます。
③私語、スマホ操作、食事は原則禁止です。注意しても改めない場合は退場となり、授業後MPを出せなくなりますので、その日のMP点4点を失うことになります。
④学生の皆さんの集中力を保つため、途中で5分間の休憩を取ります。休憩中に限り、私語、スマホ操作、トイレ、ストレッチ体操などが自由にできます。

授業内容

授業内容
第1回<春期(Ⅰ)=第1回~第15回>
ガイダンスーー江本自己紹介、授業の進め方、評価方法、約束事
グラフで見る日本鉄鋼業と日本経済
第2回戦後復興――八幡集中生産と傾斜生産方式
第3回朝鮮戦争特需――日本経済復活の最大の要因
第4回設備近代化――米国に追い付き、追い越せ
第5回「七色の煙」が鉄鋼人の誇り――高度成長の熱狂の中で
第6回 光化学スモッグ、水質汚濁――公害の発生と克服(外部不経済)
第7回北九州・戸畑に銑鋼一貫製鉄所――臨海埋立地で高効率、低コスト生産
第8回首都圏に一貫製鉄所ラッシュ――需要地立地、一極集中加速
第9回八幡・富士「世紀の大合併」――プライスリーダーつくり「撃ち方やめ」
第10回新日鉄シームレスパイプ進出――オイルショック、高度成長の終焉が裏目に
第11回高炉休止、人員大幅削減――「プラザ合意」後の円高不況で未曾有の赤字
=春期 期末レポート課題出題
第12回スペースワールド誕生――複合経営へ半導体、テーマパーク……何でもやる
第13回スペースワールド売却――本業回帰、不採算部門整理(複合経営路線は放棄)
第14回川鉄・日本鋼管経営統合、新日鉄・住金合併――ゴーン・ショックまざまざ
第15回日本製鉄」復活――新日鉄住金、日新製鋼完全子会社化
=春期 期末レポート提出締切
<春期(Ⅰ)終わり>
第16回<ここから秋期(Ⅱ)=第16回~第30回>
ガイダンス(自己紹介、授業の進め方、評価方法、約束事)
鉄の特徴――埋蔵量多く、安価で硬くて加工しやすい
製鉄法の変遷――高炉法、電炉法の確立
第17回欧州――近代鉄鋼業発祥の地、今はインド資本の傘下に
第18回米国――投資怠り、過去の栄光遠く、ミニミル健在
第19回韓国①――POSCO成功の陰に八幡・富士の全面技術協力
第20回韓国②――現代財閥・鄭父子、苔の一念で現代製鉄開業
第21回中国①――宝山鋼鉄、『大地の子』の陰に稲山嘉寛の贖罪
第22回中国②――世界生産量の半分占める鉄鋼大国、大半は「ダモノ」
第23回インド①――「鉄くず拾い」からM&Aで世界一へ、ミッタル旋風
第24回インド②――2018年日本抜き生産量世界2位躍進、潜在成長力巨大
第25回ブラジル――日伯経済協力の象徴、米国の裏庭、現地資本との確執
第26回台湾――中国鋼鉄、ベトナムで新日鉄住金と下工程、JFEと高炉建設
=秋期 期末レポート課題出題
第27回インドネシア――国営クラカタウ、POSCOと組みASEAN初の高炉稼働
第28回わが国鉄鋼業が国際競争力を維持する理由①――モノづくりのDNA(カイゼン活動)
第29回わが国鉄鋼業が国際競争力を維持する理由②――顧客・自動車との絶えざる共同開発
第30回わが国鉄鋼業の課題――挑戦心の希薄化(ASEAN・インド投資、新製鉄法開発)
=秋期 期末レポート提出締切
<秋期(Ⅱ)終わり>