租税法Ⅰ
担当者古市 将人教員紹介
単位・開講先選択  2単位 [観光経営学科]
科目ナンバリングPUL-301

授業の概要(ねらい)

 なぜ、税金は割り勘ではないのだろうか。国の歳出に必要な税額を一人当たりに換算すれば税金は一つで十分になり、租税法という講義はずいぶん簡単になる。しかし、現実の租税制度は複数の税金で構成されている。この問題をどう説明すべきだろか。その上で、「なぜ、私たちは政府に税金を支払うのだろうか」という質問を考えてみてほしい。この疑問に対して、憲法に書かれている「納税の義務」を持ち出すのが簡単な答え方であろう。つまり、「なぜ、このルールに従わないといけないのか」という質問に対して、「それが義務だから」と答えることになる。さて、どう考えるべきか。
 以上の問題に対して、政府による公共サービスの財源調達のために税金が存在すると説明する人もいるかもしれない。実際、私たちが日々利用する道路・公園・保育園・小中学校・介護施設は、国や地方自治体が建設・整備しており、その財源は租税によって調達される。
 しかし、考えてみると私たちは税金を支払った見返りとして特定の政府のサービスを受け取ってはいない。個別の公共サービスを利用するたびに、税金を支払うことはない。つまり、お店では商品とお金が一対一の対応関係をもつが、納税額と納税者の受け取る公共サービス量は一対一の対応関係をもっていないのである。
 税と公共サービスの関係を出発点として、税制を理解するために必要な制度・理論・歴史を本講義では扱っていく。本講義では、税制を租税の理論(租税論)の観点から理解することを一つの目標とする。実定税法の諸規定や税制改革の動向は租税論の成果を基礎としている場合が多く、日本の税法を理解するのに租税論の学習は必要不可欠である。

授業の到達目標

 租税の理論・制度・歴史を学び、税制をめぐる議論を複眼的に理解できることが、本講義の目標である。以下の点が本講義の到達目標である。
 (1)基本的な租税原則の意義を理解し、説明できる。
 (2)超過累進税率と単純累進税率との違いを理解する。
 (3)課税単位の各方式の違いを理解し、それを説明できる。
 (4)現行所得税の基本的な仕組みを理解し、税額を計算できる。

成績評価の方法および基準

 講義中に提出してもらうリアクションペーパー(20%)、小テストの点数(20%)、試験の点数(60%)によって基本的に評価する。ただし、以下の加点措置を実施する。
 (1)加点レポートを提出することができる。提出者にはレポート分の点数が上記の点数に加点される。
  *このレポートの提出は任意である。未提出であっても減点はされない。
 (2)講義中の教員の質問に答えることで、加点される場合がある。

教科書・参考文献

種別書名著者・編者発行所
教科書 講義ノートを配布する。参考文献と講義との対応関係は講義にて指示する。有用な参考文献は適宜紹介する。
参考文献『租税法概説 第3版』中里実・弘中聡浩・渕圭・伊藤剛志・吉村政穂編有斐閣、2018年。
参考文献『よくわかる税法入門 第13版』三木義一編有斐閣、2019年。
参考文献『租税法入門 第2版 』増井良啓有斐閣、2018年。
参考文献『私たちはなぜ税金を納めるのか 租税の経済思想史』諸富徹新潮社、2013年。

準備学修の内容

 初回講義時に、各回の講義概要、各回の到達目標とキーワード、参考文献の対応箇所を整理した資料を配布する。講義の冒頭で、前回講義の復習(約5~10分)をする。そのため、配付資料を参考に、キーワードの定義を確認しノートに整理する、講義ノートの例題・練習問題を自分で解く、到達目標を確認するといった、復習と予習を履修者はすることが望ましい。予習の際には、次回の授業概要、到達目標、キーワード、関連する例題をよく読むことが望ましい。復習の際には、講義で扱った重要用語の定義や到達目標を確認した上で、例題と練習問題をもう一度自分で解くことが望ましい。特に、講義で扱った税の計算問題を自分で解くことは、講義の内容を理解するのに必要である。講義冒頭の復習問題や質問にうまく答えた人には、場合によっては加点をする(3.成績評価参照)。

その他履修上の注意事項

 初学者にも理解できるように説明する。租税法Ⅱと併せて履修することが望ましい。

授業内容

授業内容
第1回イントロダクション:講義運営について、租税の意義
第2回租税の根拠、租税の機能論
第3回租税原則論
第4回日本の租税体系概論
第5回個人所得税の理論と制度(1):所得税とは何か、「所得」とは何か
第6回個人所得税の理論と制度(2):超過累進課税方式について
第7回個人所得税の理論と制度(3):所得税と控除制度
第8回個人所得税の理論と制度(4):納税額の計算
第9回個人所得税の理論と制度(5):所得税と課税単位
第10回日本の所得税制の歴史とその特徴
第11回これまでの講義の復習と日本税制史の概観
第12回資産課税の理論と制度(1):資産課税の意義
第13回資産課税の理論と制度(2):税額の計算
第14回各国の租税構造と二元的所得税論
第15回税務行政について
 ※進度などの関係で、講義内容は一部変更する場合がある。