財政学Ⅰ
担当者古市 将人教員紹介
単位・開講先選択  2単位 [観光経営学科]
科目ナンバリングPFP-201

授業の概要(ねらい)

 あるAさんが貴方に次の質問をしたとしよう。「この道路をつくる時の税金を君は払っていない。だって、その時君は生まれていなかった。だから、君はこの道路を通ることが許されない」。貴方はこの議論が変だと思うだろう。しかし、なぜそう言えるのか。商店で150円の価格のジュース1本を買うことは、「150円」と「ジュース1本」が対応していることを意味している。つまり、ジュース2本が欲しければ、300円をお店に支払わなければならない。Aさんの質問は、取引における「買い逃げ、食い逃げ」を念頭に置いているのだ。さて、生まれる前に作られた施設を私たちが利用することは、何を意味しているのだろうか。
 私たちが日々享受している公共サービスの世界には、ジュースとお金の関係が必ずしも当てはまらない。例えば、あるBさんが、「私は、隣のCさんよりも、20倍税金を納めている。だから、Cさんの20倍の公共サービスを受け取るべきだ。または、私の子どもはCさんの子どもの20倍の教育サービスを受けるべきだ」と発言したとしよう。おそらく、多くの人はこの発言に違和感を覚えるであろう。実際、公共支出の世界においてBさんの論理は成立しない。
 納税額の計算に公的サービスの利用量を考慮することはない。公的サービスの利用に、納税額が必要となることもない。しかし、公的サービスを皆が享受し、皆でその財源を負担しているのは間違いない。いかなる仕組みで、税が納税者に課せられ、人々に公的サービスが供給されるのだろうか。この問題に答えるには政府予算について学ばなければならない。
 公的サービスを賄うお金の徴収と分配の実態を明らかにし、社会の秩序とその安定を図る政府の活動を分析する学問のことを財政学という。本講義は、財政を理解するのに必要な制度・理論・歴史を扱う。

授業の到達目標

 本講義の到達目標は以下の通りである。
 (1)基本的な財政用語を理解し、それを用いて政府の役割を説明できる。
 (2)財政の3つの機能を理解し、それを用いて財政制度の役割を説明できる。
 (3)財政史を念頭に建設公債と特例公債の役割の違いを説明できる。
 (4)マクロ的予算編成とミクロ的予算編成の役割を理解し、その意味を説明できる。
 (5)特定の制度に普遍主義が採用されている理由を理解し、それを用いて社会保障制度の役割を説明できる。

成績評価の方法および基準

 小テストの点数(50%)、試験の点数(50%)によって基本的に評価する。ただし、以下の加点措置を実施する。
 (1)加点レポートを提出することができる。提出者にはレポート分の点数が上記の点数に加点される。
 (2)講義中の教員の質問に答えることで、加点される場合がある。

教科書・参考文献

種別書名著者・編者発行所
教科書 講義にて講義ノートを配布する。参考文献と講義の内容との関係については、講義にて説明する。
参考文献『日本財政の現代史Ⅲ 構造改革とその行き詰まり 二〇〇一年~』小西砂千夫編有斐閣、2014年。
参考文献『財政学 改訂版』神野直彦有斐閣、2007年。
参考文献『財政学』 持田信樹東京大学出版会、2009年。
参考文献『私たちと公共経済』寺井公子・肥前洋一 有斐閣、2015年。
参考文献『財政のエッセンス』西村幸浩・宮崎智視 有斐閣、2015年。
参考文献『財政学 制度と組織を学ぶ』佐々木伯朗編著有斐閣、2019年。

準備学修の内容

 初回講義時に、各回の講義概要、各回の到達目標とキーワード、参考文献の対応箇所を整理した資料を配布する。講義の冒頭で、前回講義の復習(約5~10分)をする。そのため、配付資料を参考に、キーワードの定義を確認しノートに整理する、講義ノートの例題・練習問題を自分で解き直す、到達目標を確認するといった、復習と予習を履修者はすることが望ましい。前回講義の内容やキーワードに関する問題は、講義開始前に板書をする。講義冒頭の復習問題や質問にうまく答えた人には、加点をする(3.成績評価参照)。また、初回配付資料を参考に、次回のキーワードや到達目標を調べることや、次回の授業概要や参考文献の対応箇所を読むことで、履修者は予習をすることが望ましい。

その他履修上の注意事項

 経済学の基本(需要曲線と供給曲線など)を復習していることが望ましい。財政学Ⅱと併せて履修することが望ましい。

授業内容

授業内容
第1回財政学とは何か
第2回財政の3機能と政府の役割
第3回公共財の理論と政府の役割(1):公共財の理論について
第4回公共財の理論と政府の役割(2):公共財、準公共財、価値財について
第5回外部性と政府の役割(1):市場と外部性
第6回外部性と政府の役割(2):外部性と財政の3機能
第7回予算と財政民主主義(1):なぜ、現代国家と予算は不可分なのか
第8回予算と財政民主主義(2):予算循環と日本の予算制度について
第9回予算と財政民主主義(3):戦後の日本の予算編成過程と財政投融資制度について
第10回予算と財政民主主義(4):2000年代の日本の財政運営について
第11回財政政策入門(1):国民経済計算の基本について
第12回財政政策入門(2):経済安定化機能の意義と財政政策の役割
第13回財政政策入門(3):経済成長と再分配の関係について
第14回日本財政と社会保障(1):なぜ、社会保障制度が必要なのか
第15回日本財政と社会保障(2):普遍主義と選別主義