ライフサイエンスⅡ
担当者安部  良
単位・開講先選択  2単位 [総合基礎科目]
科目ナンバリングSCE-104

授業の概要(ねらい)

後期は、生物学的側面に焦点を当てて、生命を支える生命現象や健康を維持する仕組みを学ぶ。また、微生物との闘いの中で人類の存続を可能にした「免疫システム」の理解を通じて、進化の過程で起こる適応・淘汰の過程で培われた「自然知能」について学ぶ。
次いで、ヒトの健康と病気について、前期で取り扱った人類史の視点も交えて話を進める。
後半では、生命科学の急速な発展に伴い生まれた新たな課題と医療技術の進歩の結果生じる生命倫理、医療倫理に係る諸問題について論じる。

授業の到達目標

生命を支える生命現象や健康を維持する仕組みを学ぶ。主要な病気と治療法について理解する。また、科学技術や医学の進歩がもたらした恩恵と、それに伴って生まれた新たな課題を理解し、それについて考える姿勢を学ぶ。

成績評価の方法および基準

授業中に出される課題に対するレポートの内容により評価する。評価は、授業で取り上げたテーマや考察した内容が的確に表現されているかどうかで評価する。なお、15回の授業の3分の2以上の出席した受講生をお最終評価の対象とし、授業への出席回数(レポート提出数)も最終評価の際に考慮する。

教科書・参考文献

種別書名著者・編者発行所
教科書購入テキストなし
参考文献

準備学修の内容

生物の教科書を一通り読んでおく。授業で取り上げるテーマには、現在、社会的に注目を浴びているものが多く含まれている。新聞やテレビ、インターネット、図書館などを利用して情報を集め、事前に自分の考えをまとめておく。

その他履修上の注意事項

この授業は、知識の習得を目標にしたものではなく、授業内で取り上げられた内容や課題を理解し考察することを通じて受講者がそれぞれの人生に役立てることを目標にしている。従って、授業に集中することを特に求める。
また、私が課題を出す目的は、私が講義で話したこと、他の講義などで学んだこと、書籍やネットを通じて集めた様々な情報を基に、自分で考え、考えをまとめ、それを相手にわかってもらえるように表現するという機会を提供することである。それを念頭に作成し、提出する前に、十分に読み返して、論理に矛盾がないか、自分の考えが伝わるように書かれているかを確認すること。
本講義は受講者から提出されるレポートを参考にして授業の準備をし、講義を進める。従って、レポートの内容が講義の内容、さらには質をも左右すると言っても過言ではない。共同作業で充実した時間を過ごそう。

授業内容

授業内容
第1回オリエンテーション 授業の狙い
第2回新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の最新情報
第3回感染症(疫病)は歴史を作る
人類の歴史は疫病と戦争の歴史でもある。14世紀にヨーロッパ人口の三分の一を失ったペストの大流行は中世封建社会を揺るがし、ルネサンス運動のきっかけとなったと言われる。また、ヨーロッパ人によるアメリカ大陸の侵略と征服は優れた武器を開発した文明の力とともに(あるいはそれ以上に)、ヨーロッパから持ち込まれた病原菌による疫病の爆発的な広がりが原因とされる。疫病がもたらしたインパクトから、ウィズコロナ、アフターコロナ時代を考える。
第4回人類を救った“神の恩寵”
疫病の広がりの中で、人類はどのように生き延びたのか。歴史書に語られる“神の恩寵”を紹介する。
第5回科学革命と近代生命科学の誕生、自然科学への展開
ヒトの繁栄は科学の進歩抜きには語れない。科学革命がいかに人類繁栄の道を開いたかについて学ぶ。
第6回生命の仕組み 
(1) 生命とは:生命の誕生、細胞の成り立ち、生物の進化
(2)生存と繁殖:生殖によって親から子へと形質が伝わるという「遺伝」という現象の中に潜む生物の生存、繁殖の戦略を学ぶ。
第7回生命の仕組み 
(3)細胞分化と器官形成、個体形成、成長と老化
(4)死の生物学:生物の生命活動における“死”の重要性
について考察する。
第8回生体防御の要 免疫機構:生命進化が培った自然知能
(1) 免疫による防御反応は3段階:バリア(1段階)と炎症(2段階)で素早く撃退、獲得免疫(3段階)はピンポイントの近代戦
第9回生体防御の要 免疫機構:生命進化が培った自然知能
(2) 抗体(ミサイル)や重戦車(キラーT細胞)で攻撃、殲滅
(3) 免疫記憶 ワクチン
第10回生命科学の発展:生命科学の技術はここまで進んだ
人類は有史以前より微生物の営みを利用し酒や乳製品を作ってきた。文明を生んだ農耕牧畜社会の歴史は、農作物や家畜の選抜による品種改良の歴史でもある。今や人類は動物、植物、微生物の遺伝子に直接手を付け、病気に強く、経済性の高い農作物や家畜を短期間で作ることができる。本授業ではバイオテクノロジーの進化の歴史を学ぶ。
第11回生命科学の暴走
遺伝子組み換え生物であるトランスジェニック生物が広く使われる中で、生態系への影響、食品の安全性、さらにはプライバシー保護への不安などが広がっている。本授業ではバイオテクノロジーの進歩によって生み出された問題について議論する
第12回健康と幸福
300万年にわたる狩猟採集民としての心と身体を持ち、8000年前の農耕牧畜の開始いらいの食生活に適応・進化して来た臓器をもつ我々人類が、250年前の産業革命により激変した現代社会でどのように、健康で幸せに生きていくのかを考える。
第13回病気と医療
繁殖・生殖という進化の基準を超えて生きる人類にとって、40億年の選択・淘汰によって用意された生命維持装置は使用期限をはるかに超えている。ほとんどの先進国で死亡原因の上位を占める、がん、動脈硬化による心疾患、脳血管障害は生物学的にどこまで“病気”であるのか、認知症、ロコモ症候群などの加齢関連疾患にどのように向き合っていくのかを考える。
第14回医療の進歩と生命倫理、医療倫理
医療、医学の進歩は同時に新たな問題を我々に突きつける。延命技術の発達は“死ぬ権利”の侵害を、移植技術の発達は新たな死の形、“脳死”として死生観の画一化を迫るようにも見える。高額な医療が発生する先進医療は命の値段を連想させ、男女の産み分けや生体臓器移植は人権問題が絡まる。出生前診断には優生思想の影がちらつく。君たちはどう考えるか?
第15回総括