障害児の医学
担当者時崎  暢教員紹介
単位・開講先選択  2単位 [初等教育学科 初等教育コース]
科目ナンバリングSNE-304

授業の概要(ねらい)

 発達障害には自閉スペクトラム症(ASD)・注意欠如多動症(ADHD)・限局性学習症(LD)などがあり、2004年に法律上でも発達障害が定義され、その支援が国の施策として進められてきた。「発達障害」は基本的に胎児期から乳・幼児期における脳・神経系の形成・機能異常を基盤としているが、その詳細な病態に関しては未だ不明な点も多く、研究途上にある。この数年で、徐々に一般社会でもその疾患の存在自体や疾患概念についての周知・理解が進みつつあり、さまざまな困難を抱えつつも正しい診断をされずに成人し、学業・社会生活上の困難を抱えて初めて発達障害の診断を受ける例も増えてきている。我が国では、障害者雇用促進法に基づき全ての事業主は一定率の障害者を雇用する義務を負うが、2018年4月以降は法的雇用率の算定基礎に精神障害者(発達障害を含む)を加える法改正がなされた。
 授業は、現時点での最新の知見を踏まえ、健常(定型)の胎児〜乳幼児期の脳・神経系の発達過程を学びながら、これらの障害(視覚障害、聴覚障害、運動障害、遺伝疾患であるダウン症なども含め)について医学的観点から理解できるように構成した。これらの「障害」は自身を定型発達として捉えている我々にとっても決して特別なものではなく、いわゆる「個性」とされる個人間のバリエーションの観点からも捉える必要があり、我々の自己・他者認識(身体観・世界観)とも深く関わっていることも学習する。

授業の到達目標

 多様な発達障害における疾患の特徴や疫学・診断・治療について、医学的な観点から多面的に理解できるようにする。また、その前提としての正常な胎児〜乳幼児期の脳・神経系・身体の発達過程や、解剖学的知識、認知・心理学・脳科学的な基礎知識も理解し、習得する。
 また、実際の教育現場で障害児に対して適切な配慮を行うための、実践的な療育・支援の各種アプローチ法の基本概念についても修得する。

成績評価の方法および基準

 評価は、課題図書のレポート(20%)、講義中の理解度確認テストの成績(70%)、講義中の積極的な学習態度(10%)などを総合して行う。テストは6割以上の獲得が単位取得に必要であり、その合格者に対してのみ評価を行う。
 4回以上欠席(補講も含む)の場合は単位を付与しない。実習は公休扱いにするが、欠席回数が多い場合は、別途、課題提出などを指示する。
 課題レポート用の指定図書は図書館にも購入されているので、提出期限に間に合うように準備すること。

教科書・参考文献

種別書名著者・編者発行所
教科書特定のテキストは使用しない。講義ごとにレジュメをLMSに掲載し、また講義時に配布する。
発達障害や脳機能に関する書籍は多数出版されているので、以下の参考図書などをできるだけ多く読んで自己学習し、理解を深めるよう務めること。図書館の医学コーナーも積極的に利用してください。
参考文献『自閉っ子、こういう風にできてます!』ニキ・リンコ×藤家寛子花風社
参考文献『怠けてなんかいない!-ディスレクシア』品川裕香岩崎書店
参考文献『つながりの作法-同じでもなく違うでもなく』綾屋紗月、熊谷晋一郎NHK出版
参考文献『自閉症と感覚過敏−特有な世界はなぜ生まれ、どう支援すべきか?』熊谷高幸新曜社
参考文献『自閉症は津軽弁を話さない−自閉スペクトラム症のことばの謎を読み解く』松本敏治福村出版
参考文献今なぜ発達行動学なのか -胎児期からの行動メカニズム-小西行郎、ほか診断と治療社
参考文献『自閉症という謎に迫る-研究最前線報告』小学館新書
参考文献『ミラーニューロン』ジャコモ・リゾラッティほか紀伊國屋書店
参考文献『発達障害と感覚・知覚の世界』佐藤幹夫編著日本評論社
参考文献『自閉症の脳を読み解く』テンプル・グランディン、リチャード・パネクNHK出版
参考文献『自閉症だったわたしへ』ドナ・ウィリアムズ新潮文庫
参考文献『発達障害の子どもたち』杉山登志郎講談社現代新書
参考文献『発達障害のいま』杉山登志郎講談社現代新書
参考文献『自閉症スペクトラム障害-療育と対応を考える』平岩幹男岩波新書
参考文献『自閉症スペクトラムとは何か-ひとの「関わり」の謎に挑む』千住 淳ちくま新書
参考文献『発達障害』岩波 明文春新書
参考文献発達障害 -生きづらさを抱える少数の「種族」たち-本田秀夫SB新書
参考文献発達障害グレーゾーン姫野 桂扶桑社新書
参考文献発達障害に気づかない大人たち星野仁彦祥伝社新書
参考文献『片づけられない女たち』サリ・ソルデンWAVE出版
参考文献『10代の脳−反抗期と思春期の子どもにどう対処するか』フランシス・ジェンセン文藝春秋
参考文献『天才の脳科学-創造性はいかに作られるか』ナンシー・C・アンドリアセン青土社
参考文献『ディスレクシア入門』加藤醇子日本評論社
参考文献『発達障害のリハビリテーション−多職種アプローチの実際』宮尾、橋本編医学書院
参考文献『障害学-理論形成と射程』杉野昭博東京大学出版会
参考文献『日本人の9割が知らない遺伝の真実』安藤寿康SB新書
参考文献『エピゲノムと生命-DNAだけでない「遺伝」のしくみ』大田邦史ブルーバックス
参考文献『個性は遺伝子で決まるのかー行動遺伝学からわかってきたこと』小出剛ペレ出版
参考文献『子ども虐待への新たなケア』杉山登志郎学研
参考文献『視覚障害教育入門』青柳真弓ほか編著ジアース教育新社
参考文献『聴覚障害教育の基本と実際』中野善達ほか編著田研出版株式会社
参考文献図解 感覚器の進化岩堀秀修明講談社 BLUE BACKS
参考文献驚異の小器官 耳の科学杉浦彩子講談社 BLUE BACKS
参考文献『目の見えない人は世界をどう見ているのか』伊藤亜紗光文社新書
参考文献視覚世界の謎に迫る山口真美講談社 BLUE BACKS
参考文献『ダウン症ハンドブック』菅野、玉井ほか編日本文化科学社
参考文献『アルジャーノンに花束を』ダニエル・キイス早川書房
参考文献『発達障害の子どもの心と行動がわかる本』田中康夫講談社現代新書
参考文献『ソーシャルブレインズ入門-<社会脳>って何だろう』藤井直敬講談社現代新書
参考文献『脳の中の身体地図』サンドラ・ブレイクスリーほかインターシフト
参考文献『脳が壊れた』鈴木大介 新潮新書
参考文献『学力の経済学』中室牧子ディスカバー・トゥエンティワン

準備学修の内容

 LMS上に各種連絡事項や毎講義の事前学習課題やレジュメ等を掲載するので、必ず事前に確認し自己学習しておくこと。
 課題図書のレポートや理解度確認テストの連絡も、LMSに掲示する。
 講義資料の内容を理解している前提で、講義をすすめる。

その他履修上の注意事項

 「障害」の意味を、自身や身近な家族・友人の問題としてもとらえ、理解を深めていくことが重要である。

授業内容

授業内容
第1回発達障害総論
第2回脳神経系の発達 1
第3回脳神経系の発達 2
第4回自閉スペクトラム症(ASD)1
第5回自閉スペクトラム症(ASD)2
第6回意欠如多動症(ADHD)1
第7回注意欠如多動症(ADHD)2、理解度確認テスト 1
第8回限局性学習症(LD)とディスレクシア
第9回聴覚障害と音を認識するしくみ
第10回視覚障害と光を認識するしくみ
第11回発達障害と遺伝、エピジェネティックス
第12回ダウン症候群、染色体異常
第13回肢体不自由と運動障害
第14回虐待と発達障害
第15回まとめ、理解度確認テスト 2