ライフサイエンスⅠ
担当者冲永 隆子教員紹介
単位・開講先選択  2単位 [総合基礎科目]
科目ナンバリングSCE-103

授業の概要(ねらい)

 近年の生命科学・医療技術の進歩発展は、人間の生と死の現象への人為的介入を可能にしたが、その結果、多くの今日的課題を残してきた。たとえば、生をめぐっては、不妊治療の「体外受精-胚移植(IVF-ET)」、生命の選別が問題となる「出生前(胎児)診断」・「着床前(受精卵遺伝子)診断」、中絶胎児(EG)細胞や人工多能性幹細胞(iPS細胞)など、万能細胞利用の「再生医療」に対する「生命の尊厳」とは何かという新たな問いである。
 また、死をめぐっては、延命医療が生み出した「脳死」や「持続的植物状態」、犠牲を伴う「脳死・臓器移植医療」、末期がん患者の「ホスピス・緩和ケア」、末期患者の「死ぬ権利」が問題となる「安楽死」、「尊厳死(自然死)」など、現代人はかつてなかった「新たな死」の意味を再考する時にきている。これらは先端生命科学時代に生きる私たち、一人ひとりの「生と死」に対する問いかけである。
生命倫理(バイオエシックス)は、欧米を中心に1970年代に体系立てられた学際的学問で、従来のパターナリズム(医師の独善的医療行為やその態度)に対する反省から、「インフォームド・コンセント」や「患者の自己決定権」などの確立を求める医療消費者運動を契機として、自然環境保護・人種差別・反戦平和・女性解放などの社会運動と連動しながら学問的に確立された。
 春期「ライフサイエンスⅠ」では、主に終末期医療を扱う。秋期「ライフサイエンスⅡ」で、生殖医療を扱う。理解をより深めるために、通年の受講が望ましいが、半期受講でも歓迎する。また諸事情によるリモート参加も歓迎する。
 世界的試練を迎える2020年ーは、パンデミック時代の生命倫理の課題を中心に扱い、本授業ではこれまでの生命倫理とは異なる内容(新型コロナ感染症の医療倫理)、方法(オンラインZoomやYouTubeと対面のハイブリッド方式*希望選択)で実施予定。
以下参考までに昨年の授業YouTubeのURL。カーソルをURLにもっていき右クリックで「コピー」下あたりの「https…移動」で画面に飛びます。
具体的内容は以下の通り。
◎ コロナ時代の生命倫理1 :1. 限られた人工呼吸器を高齢者から若者に譲る「トリアージ」問題(NHKスペシャル)「公衆衛生の倫理」2. COVID-19末期患者を診続けた医師たちー「死」をどう考える(BBCニュース)  https://youtu.be/R7LbupMizpk、厚生労働省の「人生会議」(ACP)ーコロナを境に従来から積み残されてきたエンドオブライフケアの倫理的課題はどう変化していくか、死生学や臨床倫理学をテーマに扱う。また、最近の医療倫理の出来事、例えば、ALS患者京都嘱託殺人事件や安楽死問題について https://youtu.be/z_DZE_C1TIA
◎コロナ時代の生命倫理2 :1 .緊急事態下の「限られた医療資源の配分」、「高度集中医療を若者に譲る意志カード」、コロナ前からのテーマ「脳死・臓器提供意思表示カード」
2.「高齢者は早めの"人生会議”を」コロナ禍で日本老年医学会がまとめた、新型コロナウイルス感染症流行期にACP実施を進める提言。「命の選別しないで、コロナで「仕方ない」を恐れる障害者」…の報道。コロナ禍で苦悩する不妊治療の現状ー「不要不急」「延期」問題について。加えて、2019年の公立福生の透析中止 https://youtu.be/hP9dMelVcA8、厚労省「人生会議」ポスター撤収…最近の医療報道を扱う。

授業の到達目標

 この授業では、生命科学技術の現状を理解するとともに、基礎的知識を身につけ、バイオエシックス的課題について考える力を養うことを到達目標とする。受講者が、各教授項目のキーワード(KW)について正しく説明することができること、また、グループ討論「哲学対話」によって、他人の意見と比較し、自分の見解を他に示すことが可能になること。

成績評価の方法および基準

 定期試験(リモート式Googleフォームテスト、資料プリントを見ながら可)を70%、平常点として1-14回授業での提出課題(2行程度のVTR・授業感想、簡単なアンケート)など提出状況を30%とする。リモート(遠隔)参加者も歓迎する

教科書・参考文献

種別書名著者・編者発行所
教科書購入テキストはなし。配布資料はこちらで準備する。
参考文献改訂版 生命倫理・医事法塚田・前田編医療科学社
参考文献今を生きるための倫理学丸善

準備学修の内容

 1.指定した教科書および配布資料コピーの次回授業部分を事前に読んでおくこと。
 2.次回の授業内容を予習し、専門用語の意味等を理解しておくこと。
 3.希望者は自身の興味あるトピックス(授業で知らせる)に関連したレポートを提出すれば、指導する。積極的で熱心な学習を応援する。

その他履修上の注意事項

※この授業は、春期(ライフサイエンスⅠ)・秋期(ライフサイエンスⅡ)の通年受講が望ましいですが、単位認定になんら影響しません。また、「生命倫理」や「人間学基礎セミナーI・Ⅱ」とも関連しています。毎回課題(数行のコメント)を提出することで参加・出席点とします。長くなりますが、参考までに去年の例を挙げておきます。
◎課題1はコロナ生活で困ったこと、逆にプラスになったこと(収束しても続けていきたいこと)、課題2はトロリー問題(一人を救うか5人を救うか…)、課題3はトリアージ問題(限られた人工呼吸器の配分問題、必要なのは3人に対し、呼吸器が2台、高齢感染患者から若者感染者へ移し替えるか?課題4は高齢者から若者へ高度集中治療を譲る意志カードについて、
課題5はトリアージ(優先順位をつける)と反トリアージ(優先順位のトリアージの考え方は優生思想になるからトリアージには反対)、
課題6はCOVID-19末期患者を診続けた医師たち「死」をどう考えるか…BBCニュース)、
課題7は竹之内裕文『死とともに生きることを学ぶ死すべきものたちの哲学』Q1-5、課題8はナチズムと優生思想、課題9は厚労省人生会議ポスター炎上問題、課題10は冲永博論京大こころの未来研究センターACP意識調査、課題11は公立福生病院の透析中止問題、課題12はNHK彼女は安楽死を選んだ、課題13はNHK外部講師の「表現の自由、匿名報道を考える」、課題14ー15はZoom対談 京都嘱託殺人事件…

基本的に対面授業を行いますが、その他、ジャーナリスト、医師、哲学・倫理学分野の研究者等、各方面の専門家を交えたZoomでの対談式講義を数回行います。オンデマンド授業で繰り返し、基礎知識を得たり、Zoomでのリアルな双方向授業でその都度わからないことを確認したりするメリットがあります。資料持込のGoogleフォーム・リモートによる択一テストと課題提出によって総合評価します。
試行錯誤して行う関係で、予定が変更するかもしれません。
Zoomのレコーディング収録mp4ファイルをYouTubeにアップしますので、参加できなかった人はオンデマンドYouTube動画を観てください。
対面授業に参加できない(できなかった)人は、Zoomでのリアル参加、YouTubeでのオンデマンド参加いずれかで出席となります。加えて一回ごとの課題提出で参加とします。

授業内容

授業内容
第1回 はじめに―授業の進め方や評価方法、授業内容等の概略を説明する。
 *以下に予定するテーマ及びビデオ内容は進行により変更する場合がある。
第2回 生命科学(ライフサイエンス)、生命・医療倫理(バイオエシックス)誕生の歴史(1):戦時中の人体実験の倫理問題(独国:ナチスのホロコースト、弱者を利用した人体実験、日本:731部隊による人体実験)
 →臨床・医学研究(人体実験)の倫理確立、被験者の権利保護 KW:ニュールンベルク綱領(1947)、ヘルシンキ宣言(1964)、インフォームド・コンセント
 (ビデオ:アラン・レネ「夜と霧」(フランス映画1955))
第3回 バイオエシックス誕生の歴史(2):人体実験に対する倫理問題(米国:「タスキギー事件」「ウィロー・ブルック事件」「ユダヤ人慢性疾患病院事件」「シカゴ・マラリア研究」「放射線被爆人体実験」)、同意なき治療、医療過誤事件→臨床現場の倫理確立、患者の権利保護 KW:患者の権利章典(米国73、日本91)、リスボン宣言(1981)、患者の自己決定権、インフォームド・コンセント、ヒポクラテスの誓い、パターナリズム、生命倫理4原則(ビーチャム)、臨床倫理4分割表(ジョンセン)
 (ビデオ:「知ってるつもり-731部隊と医学者たちー」日本テレビ2000)
第4回 患者の権利(1):治療選択権-4分割表を使ったグループ討論
 Case Study1―エホバの証人輸血拒否問題 KW:患者の自律尊重原則、J.Sミルの他者危害原則、QOL(生命の質)、SOL(生命の神聖性)、医師の善行(与益)原則・不加害の原則、ヒポクラテスの誓い、パターナリズム
 (ビデオ:「生命倫理を考える―終わりのない8編の物語―」 ②「花のプレゼント」丸善1995)
第5回 患者の権利(2):治療拒否権-4分割表を使ったグループ討論
 Case Study2―重度の火傷を負った患者の治療拒否問題 KW:臨床倫理4分割表(ジョンセン)、医学的適応、患者の意向、QOL、周囲の状況
 (ビデオ:「いのちは誰のものか―ダックス・コワートの場合」丸善1995)
第6回 小テスト1回目実施。答え合わせ。患者の権利(3):治療拒否権-4分割表を使ったグループ討論
Case Study3―終末期医療・緩和ケア、延命措置の問題 KW:臨床倫理4分割表(ジョンセン)、医学的適応、患者の意向、QOL、周囲の状況
 (ビデオ「生命倫理を考える―終わりのない8編の物語―」①「老人の友」丸善1995)
第7回 終末期医療(1)―緩和ケア 末期がん患者の全人的苦痛、全人的ケア
 Case Study―いのちを見つめる1 KW:ターミナルケア、ホスピスケア、ビハーラケア、緩和ケア、全人的(トータル)ケア、エンド・オブ・ライフケア、スピリチュアルケア、WHOの健康定義
(ビデオ:「ともに死に向かう 鳥取ホスピスの現場から―野の花診療所 徳永進医師」NHK2005)
第8回 終末期医療(2)―緩和ケア 「ホスピス・緩和ケア」に関する概論
 Case Study―いのちを見つめる2 KW:キュブラー・ロス、シシリー・ソンダース、柏木哲夫、セデーション(鎮静)、WHO疼痛緩和方式
第9回 終末期医療(3)―安楽死 概念整理・現状 KW:死ぬ権利、安楽死、医師による自殺幇助、ホームドクター制、インフォームド・コンセント、自己決定権
 Case Study―オランダの現状(安楽死法2001)、世界における安楽死・尊厳死に関する法律
 (ビデオ:「安楽死がついにドキュメントされた!~依頼された死~スペースJスペシャル」毎日1994)
第10回 終末期医療(4)―安楽死 概念整理・現状 KW:慈悲殺、6要件(山内事件)、4要件(東海大事件)
 Case Study―日本の現状「山内事件(1962)」「東海大事件(1995)」「国保京北町事件(1996)」)
 (ビデオ:クローズアップ現代「私の呼吸器を外してください」NHK2009)
第11回 終末期医療(5)―尊厳死 概念整理・現状 KW:尊厳死、患者の意思表示(事前指示)、リビング・ウィル、蘇生拒否(DNR)、患者の持続的委任権法(1983)、患者の自己決定権法(1990)
 Case Study―米国の現状「カレン・アン・クインラン裁判(75-76)」「ナンシー・クルーザン裁判(83-92)」
第12回 終末期医療(6)―尊厳死 概念整理・現状 KW:尊厳死、患者の意思表示(事前指示)、リビング・ウィル、蘇生拒否(DNR)、尊厳死法
 Case Study―日本の現状「射水市民病院(人工呼吸器取り外し)事件(2000-2005)」、尊厳死法制化の動き
 (ビデオ:クローズアップ現代「人生の最期をどう迎えるのか」NHK2012)
第13回 小テスト2回目実施。答え合わせ。小テスト1・2回復習・説明。
 終末期医療(7)―アドバンスケアプランニングAdvance Care Planning:ACP(事前ケア計画)概念説明
 KW:ACP、エンドオブライフケア、人生最期に向けての意思決定支援
 (ビデオ:クローズアップ現代「私の遺体提供します―増える献体それぞれの選択」NHK2015)
第14回 終末期医療(8)―海外と日本のACP現状
 KW:高齢者へのケア、ACP開発研究(冲永隆子、信州大学医学部・大学院研究科 生命倫理学市民公開授業「終末期医療と生命倫理」2015.6.9報告、京都大学こころの未来研究センター「患者と家族の終末期の希望を実現するための倫理支援・ACP開発研究」2015.12.20報告、ドイツ・エアフルト大学「Bioethics for Support on End of Life Care in Japan意思決定支援に向けてのバイオエシックス」2015.8.25報告)
第15回 期末テスト解説Zoom会