担当者 | 安部 良 | |
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単位・開講先 | 選択 2単位 [総合基礎科目] | |
科目ナンバリング | SEM-202 |
幸福と満足について調べたデータがある。それによると、自分は幸福だと思っている人は毎日の生活に満足していると答えた人よりも10%程度多いそうだ。更に生活に不満と感じている人の中でおよそ半分の人は幸福であると答えているとのことだ。 世の中は物であふれ便利になった。寿命も延び、今や人生100年の時代を迎えようとしている。しかし、その様な世の中を生きる私たちは皆が幸せと感じるかというと必ずしもそうとは言いきれない。事実、自殺する人は戦争や犯罪などの暴力によって命を落とす人よりも多い。 誰しも幸福になりたい。不幸になりたいと思う人はいない。しかし、我々は幸福についてどのぐらい知っているのだろうか。
本講義では学内外から講師を招いて受講者を含めたディスカッションやグループワークなどを交えて、様々な角度から幸福について考える。
38億年前の生命誕生以来、それぞれの生物種は、地球環境の変化に適応して自らの子孫を後世に残すための「自然知能」を遺伝子に蓄積してきた。人類は600万年前に誕生したが、およそ7万年前に起きたとされる「認知革命」は、ヒト特有の「知性」、「感性」「想像力」「感情」などからなる「人間知能」を生み出た。その結果、人類は、大型捕食者におびえてひっそりと生きる弱小哺乳類の座から僅か数万年の間に食物連鎖の頂点に駆けあがった。やがて、農耕牧畜は都市を生み、文字の発明から文明社会が誕生し、その後の科学革命、産業革命は地球の生態系を一変させ、地球環境そのものも大きく変えようとしている。
さらに、コンピューターの登場を端に発する情報革命は、ほんの50年の間に人間社会を大きく変えた。そして、人間の脳の階層構造に基づき開発されたディープラーニングを基礎とする第3世代「人工知能」は、社会の中でのヒトの役割を大きく変えるのみならず、SNSやデジタル機器による情報テクノロジーを通じて人の行動や思考に影響を与えてきている。今や我々人類は「自然知能」「人間知能」「人工知能」の3つの知能により操られている。
一方、ヒトの健康と福祉の増進を目的に発展してきた「生命科学」は、多くの病から人類を救い、寿命を延ばし、人類に繁栄をもたらした。そしてついには遺伝子を思うがままに変えることできる「ゲノム編集」という技術を開発した。今やヒトは自分の好みや欲望の為に、38億年かけて培ってきた「自然知能」に対して挑戦状をたたきつけているようにも思える。知性や感情を必要としない「人工知能」は、定められた問題を解決する能力については「人間知能」をはるかに凌駕する。今後、人類はこの三つの「知能」のバランスをどのように取っていくのか、また、向かうべき社会にはどのような「幸福」があるのだろうか。
後期では幸福についての理解を深める。まず、石器時代から現代にいたるまでの人類の活動を歴史・人類学的視点から考察し、さらに経済学、法学などの社会科学的な考え方や人文科学的な考え方の発展を人間知能の進化という観点から論じる。これらを通じて幸福の役割、その姿の変化を学ぶ。そして、人工知能やビッグデータ、さらにはゲノム編集やサイボーグ技術などの広がりが、人類の幸福にとってどのような意味をもちうるかを検討するとともに、来るべき予測不能な社会の中で力強く生きていく力をどのように育むことができるかを考えていく。
後期では、幸福についての理解を深める。また、石器時代から現代にいたるまでの人類の活動の中、幸福の役割、その姿の変化を学び、来るべき予測不能な社会の中で力強く生きていく力を育む。本講義では知識の習得とともに、グループワークなどを通してコニュニケーション力の向上も目指す。
授業中に行われるディスカッションやグループワークへの参加(15%)と提出された課題に対する回答(レポート)の評価(85%)により成績を決定する。課題は授業時間内に担当教員より示される。レポートはLMSを通じて1週間以内に提出する。
種別 | 書名 | 著者・編者 | 発行所 |
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教科書 | 購入テキストなし | ||
参考文献 | 購入テキストなし |
各回の授業内容について「生物」や「世界史」の教科書、科学雑誌、新聞、インターネットなどの関連事項に目を通しておく。人工知能、ゲノム編集などの先端科学技術についても、基礎的な知識を得ておくことが望ましい。
この授業は、知識の習得を目標にしたものではなく、取り上げられた内容を材料に、考察し、受講者がそれぞれの人生の指針を見出すことを目標にしている。レポートについては、授業内容に集中し、考察した内容を的確に表現できるようにすることが高い評価となる。積極的な受講を期待する。
履修者が100名を超えた場合、第1回目の授業時に課題レポートを課し、その内容によって履修者100名を決定する。
回 | 授業内容 |
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第1回 | 担当:安部良(先端総合研究機構) オリエンテーション:授業の進め方、評価方法、などの説明、各回の授業内容について担当講師による紹介 |
第2回 | <幸せの変遷(1)人類史からみた幸福> 担当:安部良(先端総合研究機構) 幸福の誕生とその変遷、狩猟採集社会から農耕牧畜社会への移行、文明の発祥 |
第3回 | <幸せの変遷(2)経済学から見た幸福> 担当:廣田功(経済学部経済学科) 経済学の展開、国民の豊かさから個人の満足へ、功利主義、分配と格差の顕在化、 貧困観の変化、厚生経済学の成立 |
第4回 | <幸せの変遷(3)思想史から見た幸福> 担当:福島知己(経済学部経営学科) ユートピアの歴史。われわれは何を幸福と感じてきたか |
第5回 | <幸せの変遷(4)現代政治と幸福追求> 担当:天日隆彦(法学部法律学科) 経済協力開発機構(OECD)による幸福度指数なども踏まえ、政治における幸福の意味を考察する |
第6回 | <幸せの変遷(5)文化・芸能に見る幸福> 担当:萩原由加里(文学部日本文化学科) マンガ・アニメーション作品で描かれる幸福、作中で描かれる「幸福」の表現から、何をもってして幸福を感じるのかを考える。 |
第7回 | <幸せの変遷(6)宗教と幸福> 担当:福島知己(経済学部経営学科) 宗教は人間を幸福にするか |
第8回 | <幸せの変遷(7)哲学と幸福> 担当:福島知己(経済学部経営学科) 哲学は幸福をどのように考えてきたか、文明は人類を幸福にしたか |
第9回 | <文明と幸福(1)> オンライン授業 担当:安部良(先端総合研究機構) 文明と文化の関係 |
第10回 | <文明と幸福(2)> 担当:岡ノ谷一夫(東京大学大学院総合文化研究科) 人工知能とデジタルコミュニケーション |
第11回 | <文明と幸福(3)> 担当:安部良(先端総合研究機構) 自然知能と人間知能を脅かす生命科学 |
第12回 | <文明と幸福(4)> 担当:城戸 隆(先端総合研究機構) テクノロジーと人類の未来 |
第13回 | <文明の暴走?(1)> 担当:岡ノ谷一夫(東京大学大学院総合文化研究科) 生物進化の終焉と人工知能のシンギュラリティ |
第14回 | <文明の暴走?(2)> 担当:安部良(先端総合研究機構) ゲノム編集、死の調節 |
第15回 | <人類の未来> 担当:岡ノ谷一夫、安部良 多様な価値観と多様な幸福感を可能にする社会の設計 |