絵画Ⅱ
担当者森  覚
単位・開講先選択  2単位 [人間文化学科]
科目ナンバリングARL-110

授業の概要(ねらい)

1867年に王政復古の大号令を発し、天皇親政を掲げる新政権として成立した明治新政府は、新たな国家体制の整備と国内の近代化を図るために、さまざまな変革を行ないます。その一つが欧化政策と呼ばれるものです。19世紀末は、欧米列強諸国が東アジアを植民地化していった帝国主義の時代であり、日本もまた、その脅威にさらされていました。そこで新政府は、こうした国際情勢に対処するため、西洋文明の先進的な知識や制度、科学技術を積極的に導入し、国力の増強を図ろうとしたのです。

この動きのなかで、他の文物や知識とともに、ヨーロッパからもたらされることになる美術は、日本において、同じく西洋で発達した国民国家という考え方と結びついていきます。それにより、日本という国家の独自性を国内外に示す文化の一つとなる「日本美術」という概念が生み出され、さらには、日本画・洋画・歴史画といった絵画ジャンルが作られていくことになるのです。

本授業では、そうした近代日本で人工的に創出される「日本美術」と、これに付属して生まれた日本画や歴史画などに関する展開を追いながら、西洋で発達した「美術」が、日本で受け入れられていく経緯について見ていきます。

また、近代という時代は、科学技術の発達により新しいメディアが登場した時代であり、近代日本の絵画表現も、絵本や雑誌などの挿絵にさまざまな影響を与えています。そこで、もう一つのテーマとしては、美術分野の思想や諸作品が、近代マスメディアの表現に与えた影響について注目し、娯楽を通じて広く社会や人々と「美術」が交わってきた実態について探ります。

美術という領域から飛び出していった近現代の画家は、20世紀の商業メディアを通じていかなる作品を生み出し、それらの作品はどのように大量複製され、人々に受け入れられていったのか。

美術と社会との関わりから絵画の国家的利用、商業的利用について考えます。

授業の到達目標

① 日本の近代化とともに成立した近代日本美術の展開について理解する
② 日本美術という概念へ反映された異文化の影響に気づき、説明できる
③ 画家の創作に影響を及ぼした同時代の世相や思想、他分野の文化現象について知る
④ 絵画が歴史的にどう利用されてきたのかを理解する
⑤ 絵画作品に与えられた意義と価値観が、地域や時代とともに変化していることに気づく

成績評価の方法および基準

① 授業態度(10%)
② 中間レポート(40%)
③ 学期末レポート(50%)

教科書・参考文献

種別書名著者・編者発行所
教科書『ミュシャから少女マンガへ 幻の画家・一条成美と明治のアールヌーボー』大塚英志角川書店
参考文献『〈日本美術〉誕生 近代日本の「ことば」と戦略』佐藤道信講談社
参考文献『眼の神殿 「美術」受容史ノート』北澤憲昭ブリュッケ

準備学修の内容

①教科書とレジュメをよく読み、内容を理解する。
②わからない言葉を確認して調べておく。
③課題として中間レポートなどを提出してもらうので、毎回、授業の内容をまとめておくこと。

その他履修上の注意事項

本授業は、受講者自らが描き、表現するという実践型の授業ではなく、明治時代以降の絵画やことばを事例として、近代日本美術という分野の成立と展開について知ることを目的としています。
毎回の授業では、日本が近代国家の道を歩む中、西洋世界といかに文化接触し、どのような絵画表現を生み出してきたのかについて話します。

授業内容

授業内容
第1回オリエンテーション
第2回美術の言語と言説
第3回「近代日本美術」とはなにか
第4回造語としての「美術」
第5回絵画ジャンルの形成 ─ 日本画と西洋画
第6回歴史画というジャンルの創出
第7回歴史画の展開
第8回戦争画・人間をめぐる表現
第9回近代マスメディアと美術
第10回雑誌メディアのアール・ヌーヴォー
第11回講談社の絵本『桃太郎』における日本画の表現
第12回歴史画としてとらえ直す講談社の絵本
第13回講談社の絵本にみる偉人像の変化
第14回宗教画としてみる仏教絵本
第15回総括