担当者 | 安部 良 | |
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単位・開講先 | 選択 2単位 [総合基礎科目] | |
科目ナンバリング | SEM-201 |
幸福と満足について調べたデータがある。それによると、自分は幸福だと思っている人は毎日の生活に満足していると答えた人よりも10%程度多いそうだ。更に生活に不満と感じている人の中でおよそ半分の人は幸福であると答えているとのことだ。 世の中は物であふれ便利になった。寿命も延び、今や人生100年の時代を迎えようとしている。しかし、その様な世の中を生きる私たちは皆が幸せと感じるかというと必ずしもそうとは言いきれない。事実、自殺する人は戦争や犯罪などの暴力によって命を落とす人よりも多い。 誰しも幸福になりたい。不幸になりたいと思う人はいない。しかし、我々は幸福についてどのぐらい知っているのだろうか。
本講義では学内外から講師を招いて受講者を含めたディスカッションやグループワークなどを交えて、様々な角度から幸福について考える。
生命誕生以来、地球環境の変化に適応して自らの子孫を後世に残すためのそれぞれの生物種が遺伝子に蓄積してきた「生存」と「繁殖」の戦略である“自然知能(Natural Intelligence: NI)”、我々ホモ・サピエンスに7万年前に起こった言葉と意識を生み出しヒトをヒトたらしめる“人間知能(知性)(Human Intelligence: HI)”、そして、意識と感情を必要としない知能である“人工知能(Artificial Intelligence: AI)”を幸福の実体を明らかにする切り口として授業は展開する。そして、急速な生命科学の進歩やテクノロジーの発達により生まれつつある、現実(リアル)と仮想(バーチャル)が文字通り並列する新しい世界の中に、どのような幸福を求めていくのかを思考する。
前期では、生存目的達成のための細胞の環境認識から、個体の意識への発展、他者との競争と共生、協力行動から「心」の出現、そして、感情の出現に至る過程を、生物の生命活動や動物の行動の多様性を通じて、我々の体と心を操る「自然知能」とはなにかを学ぶ。そして、人類特有の「人間知能」「知性」、「感性」「感情」「想像力」がなぜ、またどの様にうまれたかを理解する。さらに、これらの内的世界を形作る脳の仕組みや働きを脳科学的な視点から、「心」との関係を心理学的、精神・神経学的視点から紐解く。
前期は、生物学的視点から幸福についての理解を深める。1)自然知能では、動物の行動を学習し自然知能の起源から発達を理解する。2)認知革命では、自然知能が生み出す心ならびにヒトが持つ人間知能の誕生について理解する。3)自然知能と人間知能が生み出す幸福では、脳科学と心理学を学ぶことを通じて幸福について自分なりの見解を表現できる。本講義では知識の習得とともに、グループワークなどを通してコニュニケーション力の向上も目指す。
授業中に行われるディスカッションやグループワークへの参加(15%)と提出された課題に対する回答(レポート)の評価(85%)により成績を決定する。課題は授業時間内に担当教員より示される。レポートはLMSを通じて1週間以内に提出する
種別 | 書名 | 著者・編者 | 発行所 |
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教科書 | 購入テキストなし | ||
参考文献 | 購入テキストなし |
各回の授業内容について「生物」の教科書、科学雑誌、新聞、インターネットなどの関連事項に目を通しておく。人工知能、ゲノム編集などの先端科学技術についても、基礎的な知識を得ておくことが望ましい。
この授業は、知識の習得を目標にしたものではなく、取り上げられた内容を材料に、考察し、受講者がそれぞれの人生の指針を見出すことを目標にしている。レポートについては、授業内容に集中し、考察した内容を的確に表現できるようにすることが高い評価となる。積極的な受講を期待する。
回 | 授業内容 |
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第1回 | <オリエンテーション> 担当:安部良(先端総合研究機構) 授業の進め方、評価方法などの説明、各回の授業内容について担当講師による紹介 |
第2回 | <導入> 担当:岡ノ谷一夫(東京大学大学院総合文化研究科) 自然知能と幸福 |
第3回 | <自然知能の誕生と進化> 担当:安部良(先端総合研究機構) 生体防御の要「免疫システム」自然知能が操る細胞社会 |
第4回 | <自然知能が育む心(1)> 担当:草山太一(文学部心理学科) 自己認知から自然知能を考察する |
第5回 | <自然知能が育む心(2)> 担当:草山太一(文学部心理学科) 他者への思いやり・援助行動や協力行動から自然知能を考察する |
第6回 | <自然知能が育む心(3)> 担当:本間光一 (薬学部) 鳥類の知能(学習能力、刷り込み学習)から自然知能を考察する |
第7回 | <自然知能が育む心(4)> 岡ノ谷一夫(東京大学大学院総合文化研究科) 動物の心、感情と情動 |
第8回 | <幸福の誕生> 岡ノ谷一夫(東京大学大学院総合文化研究科) 人間知能(知性)を生んだ認知革命、 |
第9回 | <幸福と満足> 担当:安部良(先端総合研究機構) 満足と幸福の関係 オンライン授業 |
第10回 | <脳神経系の基礎> 担当:内野茂夫(理工学部 バイオサイエンス学科) 神経回路の形成や機能維持機構など |
第11回 | <幸せのアルゴリズム(脳科学・脳化学)> 担当:細田千尋(先端総合研究機構) 脳に幸せを感じさせられるための行動、行動選択に欠かせない脳の構造や機能、行動選択時に起こる脳内の神経伝達物質の変化、行動選択に伴う脳の機能や構造の変化 |
第12回 | <幸福と私の価値> 担当:稲田尚子 (文学部心理学科) 幸福になるために、私の価値と行動について考える |
第13回 | <幸福と福祉> 担当:稲垣綾子(文学部心理学科) 臨床心理学の実践で考える“幸せ”とは |
第14回 | <老いと幸福> 担当:大塚秀実 (文学部心理学科) 精神分析の観点から幸福を捉える |
第15回 | <総括> 担当:安部良(先端総合研究機構) |