消防法と予防行政Ⅰ
担当者荒井 伸幸
単位・開講先選択  2単位 [法律学科 2017年度以前]
科目ナンバリングLAW-201

授業の概要(ねらい)

 例えば以下のような状況で、皆さんはどのように感じるだろうか。
 ・旅館で就寝中に、火災報知器のようなベル鳴動音が響いている。しかし、館内には何の放送も流れず、どうしていいのか分からない。
 ・友人との飲み会のため、繁華街の雑居ビル2Fに入店する居酒屋に向かった。階段を上がろうとしたがビールケースなどが置いてあって歩けないので、仕方なくエレベーターでお店に向かった。
 おそらく、本当に火災が起きていたら死んでしまう、あるいは万が一火災が起きたら避難できないのではないか、と不安になるだろう。それと同時に、消防署は何を指導しているのかと疑問に思い、憤りを感じるかもしれない。
 こうした事態を招かないように、火災による生命、身体、財産への被害を未然に防ぐのが消防機関による火災予防行政であり、消火活動や救助・救急活動と並ぶ消防機関の重要な任務である。火災予防行政は、単に「火の用心」を広報するだけではなく、消防法やそれに基づく政令、省令、告示、条例などにより様々な規制が規定され、許認可、立入検査、行政指導などによって行われている。
 例えば、一定規模以上の防火対象物にはスプリンクラーなどの消防用設備等の設置が義務付けられ、また、石油などの危険物を一定量以上貯蔵し、取扱う場合には事前の許可や検査が必要とされている。更には、物的な規制だけではなく、防火管理者や危険物取扱者などの資格者の配置も定められている。
 本講座は教科書とパワーポイントを併用した講義形式で、消防法令の観点からこうした消防機関による火災予防行政の仕組みの全体像を解説するものである。講師は、東京消防庁の消防吏員としてポンプ車の隊員や隊長、火災現場で出場部隊全体を指揮する大隊長などを経て、同庁の法務分野や火災予防分野を経験してきた実務家である。消防行政の紹介とともに行政実務において消防法令がどのように運用されているのかを解説し、また、本学部が意図する実学の観点から、行政を執行する消防職員の視点とそれを受ける立場の一般市民の視点との双方を意識した講義とする。
 そもそも本講義を含む「消防法と予防行政Ⅰ~Ⅳ」は、消防機関において予防業務を担う消防職員が受検する予防技術検定の教科書第1巻~第4巻に対応したものである。その第1巻が火災予防行政の総論的な位置付けの「共通科目」であり、本講義はこれを踏まえている。予防技術検定は消防機関内部の資格であるが受検資格は学生・市民にも開放されているので、本講義を受講して更に深く火災予防行政に興味を抱いた際には受検を検討して頂きたい。
※受検については一般財団法人消防試験研究センター、受検用教科書については一般財団法人日本消防設備安全センターの各HP参照

授業の到達目標

 消防法令にはどのような規定があり、どのように火災予防行政が推進されているのかを理解し、実社会で消防法令の果たす役割について修得する。また、消防機関による火災予防行政について友人に語れるなど、将来社会人として防火・防災に関し指導的立場で活躍できるだけの知識と技術を育む。

成績評価の方法および基準

 各回の授業を反映した授業内試験(第15回授業)の結果を評価割合60%、毎回の授業(第1回~第14回)で行う小テストの提出や成績を評価割合40%とし、合算して評価を行う。
 但し、第14回終了時点で授業の出席が9回未満の場合は、授業内試験の採点対象外とする。
 なお、授業内試験(第15回授業)は択一式及び記述式とし、教科書と参考書に限って持ち込みを認める。教科書や参考書への書き込みは可とするが、これらのコピーや各回の授業で配布したパワーポイント資料などの持ち込みは不可とする。また、第1回~第14回で行う小テストは択一式あるいは○×式とし、教科書、参考書ととともに当日配布のパワーポイント資料の閲覧は自由である。

教科書・参考文献

種別書名著者・編者発行所
教科書テーマで学ぶ予防のイロハ予防実務研究会東京法令出版
参考文献消防基本六法消防法規研究会東京法令出版

準備学修の内容

 次回の授業のテーマに関連した教科書の該当部分や法令の条文を読んで、分からない箇所などを予め把握しておくこと。また、前回の授業の内容や小テストで理解が進まなかった項目があれば補修しておくこと。小テストの解説は、次回授業で行う。
 なお、各回の授業ではパワーポイント資料を配布するので、教科書、参考書と並行して活用すること。

その他履修上の注意事項

 教科書などを斜め読みして表面的な理解をするだけではなく、細かく関係法令を確認して法的根拠をしっかり把握する習慣を身に着けてもらいたい。また、校舎などの身近な建物や危険物施設にどのような消防用設備等があり、あるいは防火対策が講じられているか、日頃から関心を抱いてもらいたい。更に、機会があれば消防訓練などに積極的に参加してもらいたい。
 質疑応答で講師と受講生との相互理解が深まるものであり、授業内の質問を歓迎する。
 学んだ成果が活かされて、火災をはじめとした非常災害時に地域社会の安全のために貢献できる社会人となることを期待する。
 なお、【第6回】はオンライン授業とする。

授業内容

授業内容
第1回消防法令の体系と消防組織、火災予防行政の概要、火災原因調査
第2回防火対象物と消防対象物、用途の判定、特定用途と不特定用途、遡及適用
第3回消防同意、消防用設備の設置単位、無窓階
第4回消防用設備の検定、消火設備
第5回警報設備、避難設備、消火活動上必要な施設
第6回消防用設備の設置基準の特例、消防用設備の点検報告制度 ※オンライン授業
第7回防火区画、階段、非常用進入口
第8回防炎規制、禁止行為の解除承認
第9回防火管理制度、防災管理制度、防火防災対象物点検報告
第10回消防計画、自衛消防訓練
第11回防火査察、違反処理
第12回多数死傷者発生の火災を教訓にした消防法令改正と厳格な行政運用
第13回消防法の危険物と指定数量、少量危険物
第14回危険物施設の物的規制と人的規制
第15回これまでのまとめと補足、授業内試験