消防法と予防行政Ⅱ
担当者荒井 伸幸
単位・開講先選択  2単位 [スポーツ医療学科]
科目ナンバリングLAW-202

授業の概要(ねらい)

 例えば以下のような状況で、皆さんはどのように感じるだろうか。
 ・買い物のためにショッピングセンターに入店したが、通路にある消火器が錆びて劣化しているように見える。
 ・あなたがアルバイトをしているカフェは、大きなショッピングモールに入店している。そのカフェはショッピングモールから防火管理者を選任するように再三言われているが、このような小規模なカフェにその必要はないと店長は応じていない。
 おそらく、消防法にはこうしたことに対して何か決まりがあるはずだと思うだろう。それと同時に、消防署はこうした状況に対して何もしてくれないのかと憤るかもしれない。
 防火対象物は新築されてから何十年も使用されるものであるから、最初は適法に消防用設備等が設置されていても、維持管理が悪ければいざという時に使用できなくなってしまうことがある。こうした危険な状態が放置されないよう、消防機関には立入検査や是正命令の権限が付与されている。こうした行政作用を、一般に防火査察と呼んでいる。
 また、火災時の避難誘導や消火器による初期消火などは人によるものであるから、一定の収容人員のいる防火対象物では防火管理者を選任し定期的に訓練を行うことなどが消防法で定められている。
 本講座は教科書とパワーポイントを併用した講義形式で、消防法令の観点からこうした消防機関による防火査察と防火管理を解説するものである。講師は、東京消防庁の消防吏員としてポンプ車の隊員や隊長、火災現場で出場部隊全体を指揮する大隊長などを経て、同庁の法務分野や火災予防分野を経験してきた実務家である。消防行政の紹介とともに行政実務において消防法令がどのように運用されているのかを解説し、また、本学部が意図する実学の観点から、行政を執行する消防職員の視点とそれを受ける立場の一般市民の視点との双方を意識した講義とする。
 更には、防火査察は消防法令に限らず、行政指導や行政処分を行う際の行政手続、消防機関の発した命令が履行されない場合の告発、行政代執行、あるいは受命者の救済制度として行政不服審査や行政事件訴訟、国家賠償など関係法令が横断的に係わる分野であり、講義ではこれらにも触れる。
 そもそも本講義を含む「消防法と予防行政Ⅰ~Ⅳ」は、消防機関において予防業務を担う消防職員が受検しなくてはならない予防技術検定の教科書第1巻~第4巻に対応したものである。その第2巻が防火管理制度を含めた「防火査察」であり、本講義はこれを踏まえている。予防技術検定は消防機関内部の資格であるが受検資格は学生・市民にも開放されているので、本講義を受講して更に深く火災予防行政に興味を抱いた際には受検を検討して頂きたい。
※受検については一般財団法人消防試験研究センター、受検用教科書については一般財団法人日本消防設備安全センターの各HP参照

授業の到達目標

 防火管理を含めた防火査察の法的根拠と行政運用を理解し、実社会でその果たす役割について修得する。また、防火査察について友人に語れるなど、将来社会人として防火管理者となり、あるいは消防機関の防火査察を受ける立場になった際に、専門的な知見に基づき適切にその役割を果たせるだけの教養を育む。

成績評価の方法および基準

 各回の授業を反映した授業内試験(第15回授業)の結果を評価割合60%、毎回の授業(第1回~第14回)で行う小テストの提出やその成績などを評価割合40%とし、合算して評価を行う。
 但し、第14回終了時点で授業の出席が9回未満の場合は、授業内試験の採点対象外とする。
 なお、授業内試験(第15回授業)は択一式及び記述式とし、教科書と参考書に限って持ち込みを認める。教科書や参考書への書き込みは可とするが、これらのコピーや各回の授業で配布したパワーポイント資料などの持ち込みは不可とする。また、第1回~第14回で行う小テストは択一式あるいは○×式とし、教科書、参考書ととともに当日配布のパワーポイント資料の閲覧は自由である。

教科書・参考文献

種別書名著者・編者発行所
教科書実務で使える防火査察北村芳嗣東京法令出版
参考文献消防基本六法消防法規研究会東京法令出版

準備学修の内容

 次回の授業のテーマに関連した教科書の該当部分や法令の条文を読んで、分からない箇所などを予め把握しておくこと。また、前回の授業の内容や小テストで理解が進まなかった項目があれば補修しておくこと。小テストの解説は、次回授業で行う。
 なお、各回の授業ではパワーポイント資料を配布するので、教科書、参考書と並行して活用すること。

その他履修上の注意事項

 教科書などを斜め読みして表面的な理解をするだけではなく、細かく関係法令を確認して法的根拠をしっかり把握する習慣を身に着けてもらいたい。また、校舎などの身近な防火対象物にどのような消防用設備等があり、あるいは防火対策が講じられているか、日頃から関心を抱いてもらいたい。更に、機会があれば消防訓練などに積極的に参加してもらいたい。
 質疑応答で講師と受講生との相互理解が深まるものであり、授業内の質問を歓迎する。
 学んだ成果が活かされて、火災をはじめとした非常災害時に地域社会の安全のために貢献できる社会人となることを期待する。
 なお、【第5回】はオンライン授業とする。

授業内容

授業内容
第1回消防法令の体系と消防組織、査察と防火管理の概要
第2回立入検査員の権限、検査項目
第3回査察の流れ、違反処理
第4回命令不履行と告発、代執行
第5回査察と行政手続法、行政救済法 ※オンライン授業
第6回消火設備、警報設備、避難設備、消防活動上必要な施設
第7回消防用設備の設置義務と設置命令、消防用設備等の点検報告
第8回屋外の火災予防措置、防火対象物の火災予防措置
第9回使用禁止等命令、消防吏員による措置命令
第10回多数死傷者発生の火災を教訓にした消防法令改正と厳格な行政運用
第11回防火管理制度、防災管理制度
第12回消防計画と自衛消防訓練
第13回防火防災対象物定期点検報告制度と特例認定
第14回防炎規制、火を使用する設備器具等に対する規制、住宅用防災機器
第15回これまでのまとめと補足、授業内試験