西洋史籍講読1B-Ⅰ
担当者高橋 裕史教員紹介
単位・開講先選択必修  2単位 [史学科]
科目ナンバリングHEA-209

授業の概要(ねらい)

 私たちは小学校入学後に歴史を学ぶ訳であるが、高校の歴史の授業の場合、複数の歴史学者が執筆し教科書検定に合格した教科書を読み、過去の出来事を基礎知識として「覚え」、その暗記した知識を基に学内の定期試験・大学入試を突破することが、高校の世界史・日本史の授業の基本的なスタンスである。これに対して大学の文学部史学科の場合、専門家の講義と歴史の専門書の読解を通して、過去の事実を自分なりの歴史観で読み解き、再構成して伝えるための知識とスキルを学んでいく場と言える。そこには高校や中学の歴史の授業とは異なって、「受け身」を基本とする「学び」の姿勢から「主体性」を基本とする「発見」して「考え」そして「復元・再構成」することへの大きな違いがあることに注意して欲しい。そのような主体的な歴史の発見と再構成の基となる、最も重要なマテリアルの一つが文献史料である。過去の人々が様々な目的・意図・感情をこめて書き残した文献史料は、これを漠然と読むだけでは過去と対話し、過去を追体験し、過去を自分なりの歴史観で復元すること(=卒論の作成)は難しい。そこで本講義では史料読解に求められる技術・知識・立体的な読解力・史料内容の読み取り方などの涵養と習得方法の一端を、日本語に翻訳された史料の丁寧かつ緻密な読解を通して学んでゆくことにする。この西洋史籍講読を手掛かりに、皆さんが長大かつ広大な西洋史の一端をしっかりと理解され、さらにご自身の関心のある分野・課題を明確化し、それらにしたがって他の西洋史関係の科目を選択・研究できるよう、お手伝いできれば嬉しく思う。

授業の到達目標

●歴史学習の方法と在り方を「暗記する歴史」から「考え・発見する歴史」へと成長・発展させることができる。
●本講義を通して史料の基本的な知識や読解方法を習得し、史料を読み解く楽しさ・深さを発見することができる。
●自ら読み解いた史料の内容を他者に説明したり文章化したりして、自分なりの歴史の再構成ができるようになる。
●報告演習を通して他の報告者との間で史料読解の要点を議論し、史料読解のスキルアップや多様な読み方を学べる。

成績評価の方法および基準

 評価の方法であるが、この講義では成績評価を冷静かつ厳格に実施するつもりである。また受講諸君の多様で多面的な能力を、筆記による定期試験だけで測ることはできないので、講義内での「史料読解演習」を取り入れて多面的に評価をしたいものと考えている。具体的には、
 ・論述式定期試験のみの場合:90~100%(+講義時の態度や積極的質問10%)
 ・論述式定期試験+史料読解演習の場合:前者40%+後者50~60%(+講義時の態度や積極的質問10%)
 ・史料読解演習のみの場合:90~100%(+講義時の態度や積極的質問10%)
上記4種類の方法で成績評価を行う考えである。
 評価の基準であるが、まず「報告演習」では①史料全体を正確に読解できているか、②史料内の個別の要点を過不足なく把握できているか、➂史料の各文章を文章の機能別に把握・理解できているか、④読み取った内容を立体的に分かり易く、筋の通った論理的な日本語でレジュメにまとめられているか、⑤報告では適切な日本語でよどみなく明快に史料の内容を説明できているか、⑥報告者・聴者ともに質問や意見を通して演習に積極的に参加しているか、が基準となる。なお報告演習のフィードバックは、当該演習の時間内に実施予定である。

教科書・参考文献

種別書名著者・編者発行所
教科書講義内容の特殊性から、高橋が16世紀のスペイン語原文を翻訳したプリントを配布する。
参考文献特になし。

準備学修の内容

 この項目では「学習」ではなく「学修」という語がつかわれていることに注意して欲しい。「学習」とは簡単に言うと教室で椅子に座って教員の話を聞き板書された内容をノートに写す、つまり「受け身」の学び方を指す。一方の「学修」の場合は、一定の課程にしたがって知識や技術を学んで修得することを意味し、そこには「身に付ける」という「能動的」で「積極的」な姿勢が存在する。このことを踏まえると、本講義の受講希望者は準備学修として、まず丁寧で緻密な史料読解とはどのようなものであり、どのようなことが自分には必要なのか、ということに関して自分なりの考えを600字程度にまとめ、一回目の講義の時に持参・提出して貰いたい。次に歴史の論文では実際に史料の読解がどのように行われているのかを知るために、MELICにある『史学雑誌』『歴史学研究』『歴史評論』『西洋史学』に掲載されている論文を一つコピーして読み、専門家による史料読解の実際を実感すること。その際には論文中で取り上げられている史料とその史料に対する分析部分・解釈部分で、面白い・重要と感じたものについてはノートに抜き書きしておくことが、皆さんの史料読解力を高める上で非常に役立つので、面倒がらずに実践して貰いたい。高橋自身も学部生の時にこの作業を行って非常に有益だったことを覚えている。

その他履修上の注意事項

 本講義は全体の40%が高橋による講義、残りの60%が受講学生による「報告演習」という体裁を取る。報告では担当する史料の内容に関して、高橋が設定した項目に沿った内容をレジュメにまとめ、口頭での説明と発表を行って貰う。従って受講学生諸君におかれては、レジュメ作成とプレゼンテーションに関する基本的な知識等について、ライフデザイン演習時の教科書・ノートを参照して復習しておく必要がある。加えて各自が履修する講義において、積極的に質問し発表すると同時に、他の学生の質問や発表の仕方をしっかりと視聴し、学べる点を積極的に吸収することも行なって欲しい。また歴史学は様々な分野の研究領域・成果と深く関わっているので、日本史・西洋史・東洋史などの歴史関係だけではなく、政治学・経済学・法学・語学などに関する知識も、諸他の講義を通じて同時に学ぶことを勧める。そうした知識のバックボーンがあって初めて、史料を深く、立体的に読み解くことができるのである。
 講義中に必ず守ってもらうべき「規範事項」は、次の諸点である。
①「私語」「スマホのチラ見」「メール」「LINEのやり取り」は厳禁とする。スマホ、携帯はマナーモードにして貰う。
②受講態度=遅刻、私語、内職、講義の途中退室、やる気のない態度や姿勢(イヤホンやヘッドホンを着用し、椅子にだらしなく腰掛けるなどその他)の悪い学生、真面目に講義を受けようとしている学生の気力に水を差すような言動をする学生については厳しく対処する。
 その他、受講諸君に心得ていて欲しいことを記すと、
①受講学生である諸君一人一人の態度や姿勢が、帝京大学の「今と将来」の社会的「評価」と、「将来」の諸君自身の能力・人間性・社会性そのものの「評  価」を決定する、ということを肝に銘じてほしい。
②少なくともこの講義では、分からない部分が多くても、将来の自分への自己投資と思って我慢強く講義に望 むことを、自分に言い聞かせること。
ということである。

授業内容

授業内容
第1回・オリエンテーション:本講読の目標・講読の進め方・報告の内容と仕方その他についての説明。
・史料との向き合い方:歴史学における史料の役割・史料と実証性・文献史料に向き合う「4つの作法」等を学ぶ。
第2回史料の読み方:史料を読む目的・史料の文章の技術的な「読み方」・史料読解の「実際」等を学ぶ。
第3回翻訳史料を読む際の注意:史料とは何か・文献史料との向き合い方・翻訳史料を読む際の留意点等を学ぶ。
第4回ヴァリニャーノとその時代:ヴァリニャーノとは?・彼の生涯・彼の事績と日本との接点・彼の著作等を学ぶ。
第5回『東インド巡察記』の成立事情とその内容について:イエズス会の通信制度・『東インド巡察記』の成立・『東インド巡察記』の構成等を学ぶ。なおこの授業はLMSでのオンライン授業となります。
第6回史料分担の最終決定:各自が報告する『東インド巡察記』の該当Chapterを選定し、報告の順番も併せて決定する。
第7回模範報告演習:高橋が史籍講読の報告の進め方・留意点を説明し、実際にモデルケースとして報告をするので、受講学生各位は、高橋の報告をしっかりと聴き、ノートに要点をまとめ、質問して翌週からの報告に備える。
第8回報告演習①:『東インド巡察記』の担当した史料について、概要・主題・論点・状況と背景説明・注目すべき点・その史料から何を知り学べるか・史料で扱っている内容の一般化=解釈などについて、レジュメを作成し報告する。他の受講学生は「評価シート」を記入し、なおかつ報告者に質問し、それを基にして皆で議論する。
第9回報告演習②:『東インド巡察記』の担当した史料について、概要・主題・論点・状況と背景説明・注目すべき点・その史料から何を知り学べるか・史料で扱っている内容の一般化=解釈などについて、レジュメを作成し報告する。他の受講学生は「評価シート」を記入し、なおかつ報告者に質問し、それを基にして皆で議論する。
第10回報告演習➂:『東インド巡察記』の担当した史料について、概要・主題・論点・状況と背景説明・注目すべき点・その史料から何を知り学べるか・史料で扱っている内容の一般化=解釈などについて、レジュメを作成し報告する。他の受講学生は「評価シート」を記入し、なおかつ報告者に質問し、それを基にして皆で議論する。
第11回報告演習④:『東インド巡察記』の担当した史料について、概要・主題・論点・状況と背景説明・注目すべき点・その史料から何を知り学べるか・史料で扱っている内容の一般化=解釈などについて、レジュメを作成し報告する。他の受講学生は「評価シート」を記入し、なおかつ報告者に質問し、それを基にして皆で議論する。
第12回報告演習⑤:『東インド巡察記』の担当した史料について、概要・主題・論点・状況と背景説明・注目すべき点・その史料から何を知り学べるか・史料で扱っている内容の一般化=解釈などについて、レジュメを作成し報告する。他の受講学生は「評価シート」を記入し、なおかつ報告者に質問し、それを基にして皆で議論する。
第13回報告演習⑥:『東インド巡察記』の担当した史料について、概要・主題・論点・状況と背景説明・注目すべき点・その史料から何を知り学べるか・史料で扱っている内容の一般化=解釈などについて、レジュメを作成し報告する。他の受講学生は「評価シート」を記入し、なおかつ報告者に質問し、それを基にして皆で議論する。
第14回報告演習⑦:『東インド巡察記』の担当した史料について、概要・主題・論点・状況と背景説明・注目すべき点・その史料から何を知り学べるか・史料で扱っている内容の一般化=解釈などについて、レジュメを作成し報告する。他の受講学生は「評価シート」を記入し、なおかつ報告者に質問し、それを基にして皆で議論する。
第15回全体のまとめ:史料に対する理解・史料を読み解く意義・歴史を学び研究する上での史料の役割や重要性に対する認識のそれぞれは、この講読演習を受ける前と後では、どのような差異が自分の中で生じたのか、について考える。
試験(定期試験期間での実施もあり得る)。