東洋史特殊講義2B-Ⅰ
担当者楯身 智志教員紹介
単位・開講先選択必修  2単位 [史学科]
科目ナンバリングHAA-203

授業の概要(ねらい)

 紀元前221年、秦は史上初めて中国を統一した。当時の秦王・政は「始皇帝」と名乗り、広大な中国を支配していくためのさまざまな仕組みを作り上げた。秦は間違いなく、二千年以上続く皇帝支配体制の基礎を築き上げた王朝である。さらに、この皇帝支配体制が日本を含む東アジアのみならず、ヨーロッパにまで多大な影響を与えたという点を踏まえるならば、秦の「中華統一」は世界史の中でも極めて重大な意義を持つ出来事であったとも言い得よう。
しかし、その秦も統一からわずか15年で滅亡してしまう。始皇帝の作り上げた仕組みは、当時の人々には受け入れられなかったのである。そしてその後は、項羽と劉邦という二人の英雄が覇権を争う中で、新しい仕組みが作られていく。その果てに、現代でも用いられる「漢民族」という言葉のルーツとなる漢王朝が生まれるのである。
 ただし、漢王朝は自らを正統化すべく、正史編纂に際して秦を徹底的に「悪者」として描き出した。「始皇帝は儒教に関する書物を焼き払い、大勢の学者を生き埋めにし、多数の民衆を酷使して万里の長城を建設した暴君である」というステレオタイプは、ここから生まれた。しかし、そこには「漢王朝こそ儒教を護持した聖なる王朝である」とする「神話」を前提とした偏見が多分に含まれている。その偏見を除去し、真の歴史を明らかにしていくこともまた、中国古代史の重要なテーマの一つである。
 本講義では、秦が中国を統一してから、漢王朝が次の天下を作り上げるまでの数年間の歴史を、最新の研究成果をもとに復元する。その過程で、「始皇帝は暴君だった」、「劉邦はカリスマあふれる英雄だった」、「項羽は猪突猛進型の猛将だった」などの「一般的なイメージ」を可能な限りくつがえしていきたい。始皇帝や項羽と劉邦、あるいは中国前近代の歴史に興味のある学生はぜひ受講して欲しい。

授業の到達目標

・中国の皇帝支配体制の形成過程を学ぶことによって、さまざまな時代・地域の政治権力や政治形態について問題意識を抱くことができる
・中国古代史の一次資料に偏見や誇張・捏造が内包されている可能性があることを理解し、そのことを分かりやすい文章で説明できる

成績評価の方法および基準

・確認テスト・コメントペーパー40%
・中間レポート30%
・期末レポート30%

教科書・参考文献

種別書名著者・編者発行所
教科書特になし
参考文献劉邦佐竹靖彦中央公論新社、2005年
参考文献項羽と劉邦の時代―秦漢帝国興亡史藤田勝久講談社、2006年
参考文献項羽佐竹靖彦中央公論新社、2010年
参考文献前漢国家構造の研究楯身智志早稲田大学出版部、2016年
参考文献漢帝国成立前史―秦末反乱と楚漢戦争柴田昇白帝社、2018年
参考文献漢帝国の成立松島隆真京都大学学術出版会、2018年

準備学修の内容

・授業終了後、配布プリントなどを見直し、授業内容の概要について振り返るクセをつけておくこと。

その他履修上の注意事項

・私語など、他の受講者の迷惑になるような行為は控えること。
・授業内容をただ鵜呑みにするのではなく、その中から積極的に疑問点や問題点を探し出すように努めること。

授業内容

授業内容
第1回ガイダンス
第2回40万人を生き埋めにした男——秦の強大化と長平の戦い
第3回言い訳めいた勝利宣言――秦の「中華統一」
第4回「悪者」にされた始皇帝――『史記』秦始皇本紀と「趙正書」
第5回ムダに意識が高すぎた陳勝――陳勝・呉広の乱
第6回「秦を亡ぼす者は必ずや楚ならん」――懐王政権の成立と巨鹿の戦い
第7回遠まわりする劉邦――項羽と劉邦はどうやって秦を滅ぼしたのか?
第8回中間レポート出題およびレポート作成指導
第9回まな板の上の劉邦と自慢したい樊噲と錦を着て帰りたい項羽―秦の滅亡、鴻門の会、項羽分封
第10回慢心する劉邦と激昂する項羽――斉・漢の反乱、彭城の戦い
第11回韓信はなぜ背水の陣を使わなければならなかったのか——滎陽防衛体制の構築、韓信北伐
第12回すれ違う劉邦と韓信、翻弄される項羽——滎陽攻防戦
第13回独立する韓信、手詰まる項羽と劉邦――斉の攻略、広武対陣、鴻溝の和約
第14回終わる戦争、始まる政争―垓下の戦い、劉邦の皇帝即位
第15回総括 ※オンライン