知的財産入門
担当者木村 友久教員紹介
単位・開講先選択  2単位 [スポーツ医療学科]
科目ナンバリングDES-101

授業の概要(ねらい)

 著作物や発明に代表される知的財産は、土地や机のように形がある財産(有体物)とは異なり、同時に別の場所で使用することも可能であり、直接的支配が難しいアイデア等の情報です。知的財産は音楽や映像などの文化的価値に着目した財産から、技術的思想である発明やブランド価値を体現した商標など、多種多様な財産として社会のあらゆる活動領域に存在しています。したがって、創作者だけでなく知的財産の受け手側にも、どこに知的財産が存在し、どこまで利用できるのかという適切な判断能力の形成が求められ、新たな価値を提案・創造するシーンで文理の専門分野を問わず必要な能力です。
 例えば、YouTuberとして活動する場合、ご自身で作品制作から発信までを担うため、知的財産全般に渡る知識がないと多大な損害賠償請求を受けるリスクがあります。企業等の組織で仕事をする場合も同様です。ネットワーク化・国際化の流れを受けて、企業規模にかかわらず国際的な仕事をするケースが増加しています。その場合、特許権、意匠権、商標権等への対応能力がなければ、知財紛争に巻き込まれるリスクが高くなります。場合によっては、会社内での管理にとどまらず、社内で知財リスクを検討したうえで弁理士や弁護士等の外部専門家と会話をすることもあるでしょう。
 この科目は、受講者が知的財産全般の基礎的な知識を学ぶとともに、ワークシート作成を通して実践力形成を図ることを目的としています。レポート作成時に必要な知的財産の知識なども含め、身近なテーマで授業を進めます。授業前半に著作権に関する内容、後半に特許や商標などの産業財産権に関する内容を扱い、これに知財発想法や知財情報分析も組み合わせることで、Society5.0社会で必要な能力形成を図ります。例えば、理系学生が音楽著作物の権利関係と初歩的な流通実務を学ぶことで、ブロックチェーンやAI技術を活用したこれまでにない着想の音楽配信プラットフォーム構築を実現できるかもしれません。技術契約を理解することで、国際的な交渉で力を発揮することもあるでしょう。逆に、文系学生がコーヒーのドリップパック等で発明発想法を学ぶことで、需要者の不便を解消する課題解決が可能になります。このように、文理の枠を超えた総合的な授業内容でこれからの価値デザイン社会で活躍する人材を育成します。

授業の到達目標

①各種の知的財産について基本的事項を説明することができ、知的財産が関与する事柄について分析し意見を述べることができる。
②各種の知的財産情報について、検索・整理・分析を行う初歩的なスキルを身につけ日常生活・専門教育・職業生活の局面で活用することができる。
③社会活動の中で、知的財産戦略を適切に組み込んで価値デザイン(創出)に寄与することができる。

成績評価の方法および基準

評価方法:1.15回授業時の最終レポート(LMSに提出)(10%) 2.毎時間提出するワークシートと宿題レポート(LMSに提出)(90%)
評価基準:1.15回授業時の最終レポート・・・技能・表現・態度形成を測定する。授業で扱った内容を統合して、知的財産に関する問題解決あるいは価値デザインに結びつけることができる。
      2.ワークシートと宿題レポート・・・ワークシートは、思考・判断・関心・意欲を測定する。宿題レポートは、知識・理解を測定する。

教科書・参考文献

種別書名著者・編者発行所
教科書これからの知財入門〜変革の時代の普遍的知識〜(第3版) ISBN 978-4-296-10630-1 定価1650円(税込)山口大学知的財産センター日経BP社
参考文献その他、上記の指定教科書に掲載されていないスライドや課題ワークシート等はLMSに掲載します。

準備学修の内容

事前に、ご自身のパソコンあるいは携帯端末のブラウザで、下記ホームページをブックマークしてください。
 法令データ検索システム  https://elaws.e-gov.go.jp/
上記サイトから国内の法令が無償で閲覧・ダウンロードできます。

その他履修上の注意事項

 この科目は、15回全ての授業をLMSと動画配信システムを使った非同期オンライン型(オンデマンド)で実施します。動画配信情報は、LMS上の第1回授業の部分に掲載します。授業では、毎回の課題ワークシート作成を重視して、知的財産が関係する課題解決に向けたデザイン(提案)力向上を目指しています。積極的に授業参加されることを期待します。
 教科書末尾にワークシートと宿題レポートが付属しています。受講者はワークシートあるいは宿題レポートに記入した解答をスマホ等で撮影してLMS経由で提出しますので履修確定時点までに教科書を入手してください。
 なお、第1回目授業から第3回目に限り、教科書購入が間に合わない場合を想定して、教科書とは別に同じ内容のワークシートのファイルをLMSから配布します。これとは別に、教科書に記述されていないスライドや課題ワークシートはLMSから配信します。

授業内容

授業内容
第1回ガイダンスとイントロダクション
・この授業の受講方法、シラバスの学修目標、成績評価の方法、履修上の注意を説明します。
・来るべきSociety5.0の社会とこの科目で扱う知的財産の関係を、「ロバート秋山が発明した特許」「消せるボールペン特許」「ホームドア特許」「ジョージ・ガーシュインの音楽著作権復活(サマータイムなど)」「鬼滅一丁の商標出願」等の身近な事例で学びます。
・ここで説明した身近な事例について、簡単な知財戦略を御自身で考えてワークシートにまとめます。
第2回知的財産の全体像と社会における機能
・各種の知的財産の基本知識をまとめて説明します。
・各種の知的財産が社会に及ぼす作用・機能を考えます。特定の「おもちゃ」をテーマに、開発の経緯やどのような知的財産として権利を確保している野かを考えます。
・商品のネーミング(商標)を、ネーミング時に必要な要件に基づいて考えます。
・これらにあわせて、標準化戦略の基礎を説明します。
第3回著作権の基礎知識(前半)
・著作権法の基本的な枠組みと、この法律に規定されている各種の権利を説明します。
・著作物性の判定について、著作物の種類別に説明します。ここでは、文字の著作物、画像系の著作物、音楽著作物のように、異なる著作物で著作物性判定を考えます。
・「タコ公園事件」「金魚電話ボックス事件」をテーマに、著作物性の判定を御自身で考えてワークシートにまとめます。
第4回著作権の基礎知識(後半1)
・著作者の権利のうち、著作者人格権を具体的な事例とともに説明します。
・著作者の権利のうち、著作(財産)権を具体的な事例とともに説明します。
・著作物を伝達する者の権利である、著作隣接権を具体的な事例とともに説明します。
・出版権を具体的な事例とともに説明します。
・「オワタトルコ行進曲」の楽曲配信に至るまでに関与した人と、それぞれの分配関係、権利関係を御自身で考えてワークシートにまとめます。
第5回著作権法に定められた権利の具体例
・第4回授業で扱った各種権利について、更に詳細な事例で多角的に説明します。
・ホームページから楽曲を配信することを前提に、そこで行われる行為と権利の関係を御自身で考えてワークシートにまとめます。
・「キンタロー。」の振り付け等を教材に、二次的著作物やパロディの関係を説明します。
・あるドラマの有名な「土下座シーン」をテーマに、小説・脚本・俳優の演技の関係を御自身で考えてワークシートにまとめます。
第6回著作権の個別権利制限規定
・著作権法に規定されている個別権利制限規定の全体像を、具体的な事例とともに説明します。
・個別権利制限規定中、私的複製の権利制限、引用による権利制限、教育における権利制限の三種類について、具体的な事例とともに詳細に説明します。
・著作権法の基本を踏まえた上で、研究倫理との関係を説明します。
第7回著作権等を活用した実務の検討
・第3回から第6回で学んだことを基礎に、実際のスーパーマーケットのチラシ広告、web広告等を教材に知財管理とリスクマネジメントを考えます。
・小説や写真等の懸賞応募と応募規約(特に知的財産の扱い)の関係について、その規約内容の公平・適正性を考えます。あわせて、もし適正でない規約があった場合に、全体のバランスがとれた修正案を御自身で考えてワークシートにまとめます。
・出版権ないしは出版契約について、具体的な事例とともに説明します。
第8回音楽著作権等の実務の検討
・森のくまさん事件、おふくろさん事件等をテーマに、著作権等の管理リスクを説明します。
・日本音楽著作権協会と株式会社NexToneのホームぺージを利用して、楽曲の権利関係データベースによる検索を行い、特定楽曲の権利関係をワークシートにまとめます。
・いわゆる原盤権について、その概要を説明します。アーテイスト・所属プロダクション・原盤権者・レコード会社が参画するいくつかの仮想事例を用いて、原盤権契約を具体的に説明します。あわせて、ビートルフィーバー事件を使っていわゆるグランドライツについて説明します。
第9回産業財産権の基礎知識-特許制度(1)-
・特許権を取得するまでの手続、特許権の機能、ライセンス契約など、特許制度の概要を説明します。
・身近な特許権として、アクティブタイムバトル特許、取っ手付き紙箱特許、コーヒーのドリップパック特許、いきなりステーキ特許を教材に、その開発過程や発明の内容を説明します。
第10回産業財産権の基礎知識-特許制度(2)-
・特許訴訟の基礎知識を説明します。
・特許発明の権利範囲解釈の手法を、カード台紙特許、醤油容器特許等で説明します。
・ライセンス契約の初歩的知識を説明するとともに、契約書雛形を元に簡単な技術契約を作成してワークシートにまとめます。
第11回産業財産情報へのアクセス-特許・実用新案-
・J-PlatPat(独立行政法人工業所有権情報・研修館のデータベース)を利用して、特許実用新案情報を検索する方法を説明します。
・J-PlatPatを利用して、示されたワークシートに従って特許実用新案の検索方法を考えてまとめます。
第12回産業財産情報へのアクセス-意匠・商標-
・J-PlatPat(独立行政法人工業所有権情報・研修館のデータベース)を利用して、意匠・商標情報を検索する方法を説明します。
・J-PlatPatを利用して、示されたワークシートに従って意匠・商標の検索方法を考えてまとめます。
第13回産業財産権の基礎知識-意匠制度-
・意匠権を取得するまでの手続、意匠権の機能、権利範囲など、意匠制度の概要を説明します。
・製品デザイン、画面デザイン、店舗デザイン等の具体的な保護事例を使い、意匠デザイン戦略について説明します。
第14回産業財産権の基礎知識-商標制度-
・商標権を取得するまでの手続、商標権の機能、権利範囲など、商標制度の概要を説明します。
・「キレイキレイ」「イソジン」「帝京大学が保有する商標」「他の大学が保有する商標」をテーマに、商標戦略を考えてワークシートにまとめます。
第15回植物新品種登録制度の基礎知識
・種苗法による植物品種登録制度について、権利を取得するまでの手続、育成者権の機能、権利範囲など、植物新品種登録制度の概要を説明します。
・農林水産省が提供する、品種登録データベースの利用方法を説明します。
・育成者権が関わる事件を説明して、種苗戦略を考えます。