Web Syllabus(講義概要)

平成30年度

ひとつ前のページへ戻る 教授名で検索

科目ナンバリング:  
日本文化特論 I A(宗教) 冲永 荘八
選択  2単位
【日本文化専攻】 18-1-1310-0126-005

1. 授業の概要(ねらい)

 本年度の春期では、宇宙論と人間原理について概観する。私たちは、物からできた世界に住んでおり、そこには物理的な法則が支配していると考えている。しかし、物理法則から宇宙を考えると、何らかの宇宙が誕生したとして、それが人間を含めた生物が生息できるような宇宙になるのは、驚異的な低確率でしかない、ということが分かってきている。なぜなら、現代物理学では、宇宙を支配するもっとも基本的な4つの力ないし6つの定数は、驚異的な偶然によって、生命に都合のよいように定められたことにしかならないからである。これを宇宙のファインチューニング(微調整)という。このファインチューニングの不可思議さに直面して、20世紀後半から語られ始めたのが「人間原理」という考え方である。これは、宇宙に人間の存在を持ち出すことで、この驚異的偶然の不可思議さを解消させようとする、一連の言説である。
 物理学の領域で語られるようになった人間原理は、「人間がいるのだから、宇宙はこのようにも微調整されているのだ」と考える。これは、驚異的に多くの可能性からこの宇宙に私たちが住むのも、観測されることのできる宇宙はこの宇宙しかないからという、ある意味あたりまえの主張である。しかし、この宇宙が選ばれた驚異的偶然は、目的論的な文脈、さらにはなぜ宇宙が存在するかという文脈との関連でも考察する必要がある。目的論や存在の問題は、疑似命題なのか、それとも考察に値するものなのか、「人間原理」のさまざまなタイプについての吟味を通じて探っていきたい。

2.
授業の到達目標

 宇宙に人間が存在するのは、何か意味、目的があるのか。それとも宇宙は物質の機械的な展開であって、意味や目的という考え自体が虚妄なのか。ふたつのそれぞれの立場の妥当性を検討する。

3.
成績評価の方法および基準

 学期末に試験を行う。基本的に出席は毎回とる。

4.
教科書・参考書

 プリントを適宜配布する。

5.
準備学修の内容

 可能な限りかみ砕いて解説するつもりだが、思想の根幹の部分は妥協せず伝えたいと考えている。単位取得の安易さを見こんだ履修は慎んで頂きたい。

6.
その他履修上の注意事項

 配布されたプリントは授業で読むので、家であらかじめ精読し、わからない言葉などを調べておくこと。

7.
各回の授業内容
【第1回】
 なぜ人間が存在するような宇宙が作られたのか。この疑問から生じる問いの形態について。因果形式に則った思考が、宇宙の存在原因についての問いを導く。
【第2回】
 なぜ無ではなく何かが存在するのか?(存在論的問い)、宇宙が存在するようになった最初の原因は何か?(宇宙論的問い)、なぜこの宇宙のように、秩序だった体系が作られたのか?(目的論的問い)。
【第3回】
 ジョージ・ガモフのビッグバン宇宙(1946年)と、始原に関する宇宙論的問い。
【第4回】
 目的論的問いに関する、現代の宇宙論からの問いかけ。マーティン・リース(1942-)による、『宇宙を支配する6つの数』(1999)。人間が存在し得る秩序がなぜ作られたか。
【第5回】
 宇宙を支配する4つの力。この絶妙なバランスを作ったものがない。秩序への問いと、原因についての問いとの関係。
【第6回】
 「弱い人間原理」1961年、ロバート・H・ディッケ。宇宙の「平坦性」を実現する宇宙の「初期条件」が、きわめて低い確率であること。
【第7回】
 「強い人間原理」1973年、ブランドン・カーター。「初期条件」のみならず、「物理定数」や「基本法則」なども、人間が登場するように、この宇宙は作られてきた。
【第8回】
 スティーブン・ワインバーグの多宇宙を前提にした人間原理、1989年。多宇宙が、人間が観測する宇宙存在の驚異を減少させる。
【第9回】
 物理学者ジョン・バロー、フランク・ティプラーの目的論的な人間原理(1986)。生命の生息可能性は、宇宙の目的、目標。近代のコペルニクス的宇宙観を、ふたたび逆転。
【第10回】
 多宇宙説の問題点。現宇宙の「もっともらしさ」は説明できる。反面、多宇宙という検証不能な仮説を条件とする。また多宇宙の存在理由にも答えない。
【第11回】
 科学的説明とは何か。因果的説明と将来予想が科学的説明の条件。人間原理的説明は因果的説明ではなく、将来予想もできない。しかし、因果的説明には、その原因という謎が必ず生じる。人間原理的説明にはそれがない。「そうなっているから」、それ以上の問いが生じない。
【第12回】
 多宇宙説は、神の存在を無用にしたか。神への遡行的推論の否定不可能性。
【第13回】
 直接的な、「神への推論」の存在論的権利。あらゆる推論一般の根底には、信念が存在し、また存在する権利を持つこと。
【第14回】
 多宇宙は、「なぜ無ではなく何かが現実に存在するのか」という問いに答えているか?(改めて存在論的問い)。存在が価値や目的に基づくことが、控えめな要求になる。
【第15回】
 知は限界を持つか。知の地平線はこちらからは見えない。地平線を引けたら、それは地平線の向こうを見れることを条件とするから。cf)ウィトゲンシュタイン「言語の限界」。しかし知の限界は、言語の限界と同じ仕方で見れるのか?