担当者 | 池田 政俊教員紹介 | |
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単位・開講先 | 選択 2単位 [心理学科 2018年度以降] | |
科目ナンバリング | CLI-203 |
人の話を聴く、ということは、極めて日常的な当たり前の営為である。この日常的な営為と、「こころの臨床家」が専門家として行っている傾聴とはどこが違うのだろうか。この違いはどのように表現できるのだろうか。この「基礎技術」はどのように身につけられるのだろうか。ここでは、こうした表現しにくい専門的な営みとしての心理面接の性質や中身や位置づけについて、精神分析の専門家の視点から描き出したテキストを用いて講義する。これは、これから臨床家を目指そうとする人には今後進むべき方向の道しるべとなるにちがいないし,そうでない人たちにも,人間関係のありようについてさまざまに考える契機になるだそう。このテキストには、著者によって「もの思い」され、咀嚼され、練り上げられた形で、一見したところ平易にもみえる、しかし多くの意味のこもった思索が、著者自身の言葉で、豊富な具体例を交えて記されている。だからこそ知的なペダントリーではなく、実感に訴える、心に響く内容となっているのである。
さて、誤解をしてはならないのはこのテキストは単なるマニュアル本ではないということである。それを示唆する著者の言葉をいくつか拾ってみたい。
「・・問題は、”傾聴”といいながら、私たちが患者の発言をただまる飲みしていただけだったことです。それらの発言にある思いを噛みしめて味わうことができていませんでした。・・患者のこころとつながりを持って共感し受容するというプロセスもわからず、ただ私たちが共感と受容と考えるものを一方的に体現しようとしていたに過ぎませんでした。」
「質問リストを読んで尋ねることと、私たちが傾聴しつつこころに触れながら問いを発することはまったく異なっています。」
「聞いている側がみずからのこころの平穏を守るために行う知的な聞き方や表面的な親しみでは、こころに出会うことは達成さません。それはこころに出会っている”かのような”聴き方、接し方にすぎないのです。」
「こころの臨床での聞くことは、語られる内容を正確に理解することではありません。・・・クライエント/患者の思いを聴くことこそが重要・・です。」
「私たちの頭にあらかじめ収められている概念や思考・・を、そのクライエント/患者にあてはめる関わり方では、こころに出会うこと、こころに触れることにはならない・・」
さてこのテキストの著者は心理面接の技術を磨き上げていく際、「・・一日に0.005ミリの違いが生じているとしたなら、それはそのときには目に見えないし、何の違いも生じていないようでしょうが、それが1000日積み重なったら、5ミリになります。・・10年間なら、18.25ミリになるでしょう。・・こうした変化は『超越』ではなく、目標を持った努力が達成することなのです。」と語っている。つまり、「修練は限りなく続く・・」「ゆえにやりがいのあるもの」なのだと確信を持って主張している。
表面的な適応だけを支援しようとするのではない、あるいはそうした方法論に限界を感じて、相手のこころの深い部分との交流をベースにしたある種の職人技でもある心理面接について考えてみたい人の受講を勧めたい。
心理面接の基本である傾聴について、その本質、深さ、実際の概要を理解することを目標とする。この講義を受けることで、心理療法家への道を歩もうと考える学生が一人でも増えることを期待したい。
講義ノートの提出10%、試験(最終講義日)90%の予定である。出席は義務付けないが、期間中数回、その日の講義内容を30分間ほどかけて自らとったノートに沿ってまとめ、提出を求める。
種別 | 書名 | 著者・編者 | 発行所 |
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教科書 | 耳の傾け方―こころの臨床家を目指す人たちへ | 松木邦裕 | 岩崎学術出版社 |
参考文献 |
事前にテキストの該当部分を読み、A4で1枚程度のレポートとしてまとめてくることが望ましい。
真剣に学ぼうとしている他の学生の邪魔(私語、携帯電話など)をしないこと。積極的な質問、意見表明は歓迎する。
適宜池田のホームページの連絡事項を確認すること。
https://appsv.main.teikyo-u.ac.jp/~m-ikeda/index.htm
回 | 授業内容 |
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第1回 | 以下の予定であるが、あくまでも目安である。 心理面接とは何かを学ぶ。特に、支持的な聴き方から、精神分析的リスニングに至る、様々な深さの聴き方の存在と概要について学ぶ |
第2回 | 耳を傾けること、こころを理解することとはどのようなことかを学ぶ |
第3回 | 聴くことの学びと訓練について学ぶ |
第4回 | 深い聴き方、いわゆる共感と受容、聴くことの難しさについて学ぶ |
第5回 | こころに出会う、触れることの難しさ、聴くことによってこころに出会うことについて学ぶ |
第6回 | 支持的な聴き方(こころに出会うための、何かを聴き取ろうとする能動的な聴き方)について学ぶ |
第7回 | 聴き方のステップ①として、基本的な聴き方、すなわち批判を入れず、ひたすら耳を傾けることについて学ぶ |
第8回 | 聴き方のステップ②として、離れて聴く、すなわち客観的な聴き方を併用することについて学ぶ |
第9回 | 聴き方のステップ③として、私たち自身の思いと重ねて聴くことを学ぶ |
第10回 | 聴き方のステップ④として、同じ感覚にあるずれを細部に感じ取る聴き方を学ぶ |
第11回 | 精神分析的リスニング、すなわち心を感知する聴き方について学ぶ |
第12回 | 聴き方のステップ⑤として、無注意の聴き方について学ぶ |
第13回 | 聴き方のステップ⑥として、平等に漂う注意をもって聴くことを学ぶ |
第14回 | 「負の能力」を育てることについて学ぶ |
第15回 | まとめと試験 |