心理面接論
担当者池田 政俊教員紹介
単位・開講先選択  2単位 [心理学科 2018年度以降]
科目ナンバリングCLI-203

授業の概要(ねらい)

 心理面接とはなんだろうか。一説によれば、心理面接と呼ばれるものは少なくとも400種類以上はあるという。このなかには、カウンセリングやコンサルテーション(相談)などといった用語で表現されるような極めて表面的な方法から、本格的な精神分析まで様々な方法が含まれる。本講義では、心理療法のなかで最も深い方法の一つである精神分析的心理療法の学習をベースにしつつ、どのような心理療法にも通底すると思われる臨床心理面接の基本を学ぶことを目標とする。松木(2005)は、“…私たちが誰かのこころに援助したいと真剣に思うのなら、私たちの理解と技量はこれくらいでいいんだとの安易さや簡便さは望まれるべきではありません。またこころを私利や欲望から安易にあつかうのは罪悪です。大いなる努力や没頭、禁欲、根気、ときとして犠牲が必要であるとしても、こころのもっとも深いところに出会い、働きかけられるものを真摯に学ぼうとしてよいではありませんか”と述べている。実証することは困難なことが多いかもしれないが、「人と人との関わりで何かが変わるはず」という信念を持って、先人たちの経験からできるかぎりのことを学びたいと思う。
 そもそも人の話を聴くことは、極めて日常的な当たり前の営為である。この日常的な営為と、「こころの臨床家」が専門家として行っている傾聴とはどこが違うのだろうか。この違いはどのように表現できるのだろうか。いわゆる「共感」や「受容」と、「共感しているふり」「受容しているつもり」とはどのように異なるのだろか。こうした「基礎技術」はどのように身につけられるのだろうか。ここでは、こうした表現しにくい専門的な営みとしての心理面接の性質や中身や位置づけについて講義する。これは、これから臨床家を目指そうとする人には今後進むべき方向の道しるべとなるにちがいないし、そうでない人たちにも、人間関係のありようについてさまざまに考える契機になるだろう。

 参考文献の著者の言葉をいくつか拾ってみたい。
 「・・問題は、”傾聴”といいながら、私たちが患者の発言をただまる飲みしていただけだったことです。それらの発言にある思いを噛みしめて味わうこととができていませんでした。・・患者のこころとつながりを持って共感し受容するというプロセスもわからず、ただ私たちが共感と受容と考えるものを一方的に体現しようとしていたに過ぎませんでした。」
 「質問リストを読んで尋ねることと、私たちが傾聴しつつこころに触れながら問いを発することはまったく異なっています。」
 「聞いている側がみずからのこころの平穏を守るために行う知的な聞き方や表面的な親しみでは、こころに出会うことは達成さません。それはこころに出会っている”かのような”聴き方、接し方にすぎないのです。」
 「こころの臨床での聞くことは、語られる内容を正確に理解することではありません。・・・クライエント/患者の思いを聴くことこそが重要・・です。」
 「私たちの頭にあらかじめ収められている概念や思考・・を、そのクライエント/患者にあてはめる関わり方では、こころに出会うこと、こころに触れることにはならない・・」
 「(心理面接の技術を磨き上げていく際、)一日に0.005ミリの違いが生じているとしたなら、それはそのときには目に見えないし、何の違いも生じていないようでしょうが、それが1000日積み重なったら、5ミリになります。・・10年間なら、18.25ミリになるでしょう。・・こうした変化は『超越』ではなく、目標を持った努力が達成することなのです。」「修練は限りなく続く・・」「ゆえにやりがいのあるもの」。
 表面的な適応だけを支援しようとするのではない、あるいはそうした方法論に限界を感じて、相手のこころの深い部分との交流をベースにしたある種の職人技でもある心理面接について考えてみたい人の受講を勧めたい。
 可能であれば、小グループに分かれてのディスカッションを組み込んでいく予定である。

授業の到達目標

 この講義は臨床実践領域の知識を修得し、その法則や理論を説明できることを目標としている。具体的には心理面接、心理療法の基本である傾聴について、その本質、深さ、実際の概要を理解することを目標とする。この講義を受けることで、心理療法家への道を歩もうと考える学生が一人でも増えることを期待したい。

成績評価の方法および基準

 講義ノート提出20%、課題提出(LMS上で行う予定)20%、試験(14回目にLMS上で行う予定)60%の予定である。出席は義務付けないが、期間中数回、その日の講義内容を30分間ほどかけて自らとったノートに沿ってまとめる、提出を求める。

教科書・参考文献

種別書名著者・編者発行所
教科書
参考文献精神力動的精神医学ーその臨床実践 第5版(DSM-5準拠) グレン・O・ギャバード(著)、奥寺崇(監訳)、白波瀬丈一郎(監訳)、池田暁史(監訳)
岩崎学術出版社
参考文献耳の傾け方―こころの臨床家を目指す人たちへ 松木邦裕岩崎学術出版社

準備学修の内容

 事前に参考文献の該当部分を読み、A4で1枚程度のレポートとしてまとめてくることが望ましい。参考文献の1は指定図書である、履修生には、順番にその一部をまとめてレポートとして提出し、プレゼンテーションしていただくことを検討している。その他、都度文献を提示し、準備学修及び講義で使用する。

その他履修上の注意事項

 真剣に学ぼうとしている他の学生の邪魔(私語、携帯電話など)をしないこと。積極的な質問、意見表明は歓迎する。
 適宜池田のホームページの連絡事項を確認すること。
 https://appsv.main.teikyo-u.ac.jp/~m-ikeda/index.htm

授業内容

授業内容
第1回以下の予定であるが、あくまでも目安である。
乳幼児観察を参考にしながら、支持的な聴き方から、精神分析的リスニングに至る、様々な深さの聴き方の存在と概要について学ぶ。
第2回耳を傾けること、こころを理解することとはどのようなことかを学ぶ
第3回聴くことの学びと訓練について学ぶ
第4回深い聴き方、いわゆる共感と受容、聴くことの難しさについて学ぶ
第5回こころに出会う、触れることの難しさ、聴くことによってこころに出会うことについて学ぶ
第6回精神療法(心理療法)とは何かについて学ぶ
第7回治療者の基本的態度、治療構造の設定、受容することについて学ぶ
第8回力動精神医学の基本原則について学ぶ:主観的体験の比類ない価値、無意識、心的決定論
第9回力動精神医学の基本原則について学ぶ:転移、逆転移、抵抗、神経生物学との関係、現代精神医学との関係
第10回精神力動的アセスメントについて学ぶ:臨床面接における精神力動的面接と医学的面接の違い、臨床面接における転移と逆転移
第11回精神力動的アセスメントについて学ぶ:臨床面接における病歴聴取、精神状態の観察
第12回精神力動的アセスメントについて学ぶ:身体的検査と神経学検査、記述精神病理学的診断と精神力動的診断
第13回精神力動的アセスメントについて学ぶ:精神力動的診断(自我の特徴、対象関係、自己、愛着パターンとメンタライゼーション)精神力動的定式化
第14回オンライン授業:LMS上で試験とまとめ
第15回試験解説